想いを聞く者《壱》

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Aside

歳月は経ち、十歳くらいになった頃には

組織内での立ち位置も上の方になっていて

監視されたり、要注意としてマークされることもなくなる


と同時に、僅かな「信頼」できる人とも親しくなっていった





『今日も任務？』

「ああ！Aちゃん、今日も来てくれたんだね。そうだよ、そこまで難しくは無いけど」



この人は史朗さん。組織の中では中堅くらいで

しょっちゅう「殺し」をしている



でも、この人は元々は平凡な家庭の社会人だった

奥さんと子供もいて、幸せだったのに…


「取引」を見られてしまったため、この組織が二人を惨殺した



それを仕事帰りで目撃した史朗さんは絶望したけれど

何を思ったのか組織の奴らは「殺されたくなければ」と脅し

史朗さんを組織の人間にした


それ以来、史朗さんは最初こそ怯えていたものの

次第に常に優しげな笑顔でニコニコとしながら、組織でもそれなりになっていった

といっても、末端の駒として、ではあるけど




史朗さんを初めて見た時、危ういな、と思った


その感覚は的中していて、話しかけてみると

当時七つだった私にニコニコと楽しげに話しかける彼は

明らかに壊れかけていた


私と亡き娘さんを重ねているんだろう

でも、史朗さんは頭がいい。だから、私が娘でないと理解している

それでも重ねざるを得ないのは……限界だからだろう



それが分かっていても、まだ力が十分にない私では

こうして定期的に話しかけて、彼が完全に壊れないよう保つ事しかできない


壊れてしまえば、組織の人形になってしまう




それは駄目だ。今の史朗さんはまだ「人間」としてあれてる

だって、ちゃんと「ココロ」があるから


でもそれが壊れたら……もう、どうしようもない





こういう時、頭が良いのが良いことなのかどうか分からなくなる


「出来ない」ということが、分かってしまうから


でもやはり生き残るためには、頭が良くなければならないんだろうね




『…頑張ってね』

「ふふ、頑張るよ。じゃあ行ってくるね」




こうやって今日も見送る

私はまだ、組織をどうこうできるほど

強くはないから


だから、こんなことしか出来ない



不思議な力を持っていても、やっぱり出来ることには限りがある


あの綺麗な「ココロ」が染められないように、なんて


私じゃ力不足だ

なんとかしたいけど、なんにもできない


………いやなものだね

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