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『あ、そう言えば不動産屋さんに電話しないと』
後少しでホテルに着くという所の交差点で信号を待っている時に、ふと思い出したAは鞄からスマホを取り出して不動産屋に電話をかける
契約についての話を少しだけした後、また渡さなければいけない書類があるから訪問してほしいとの事で、明後日伺うと伝えて電話を切った
『感じの良い人だったな』
それだけでさっきよりも一段と浮かれたAは鞄にスマホを戻そうとした時、何週間か前にスマホに倫也が映画で歌っていた歌をダウンロードした事を思い出した
DVDなんかを買った時一緒にダウンロードしたは良いが色々ゴタゴタが重なってそのままにしていたもの
『聞きながら帰ろ』
鞄からイヤホンを取り出して耳につける
あまり外で音楽を聴く習慣はなかったけれど、耳に直接流れてくる倫也の声と時折ふく風が頬に当たって気持ち良いーー
『うまいなぁ』
のびの良い声に少し顔を赤らめながら呟いた途端、Aの後頭部に衝撃が走り思わず手で抑えると赤くてぬるっとした物が手についた
ヤバいーーそう思いながら振り返ったAは
その目に衝撃を与えた人物を捉えた時
もう1度、次はおでこに走る衝撃を避けられず
人通りの少ないとは言えない交差点でドサッと音を立てて倒れ、持っていたドーナツが箱から飛び出しあちこちに散らばった
同じく交差点で信号待ちをしていた赤ん坊を連れた女性の叫び声が響き
近くにいた大学生くらいの男性やサラリーマン等がAに危害を加えた男を取り押さえる
OLであろう女性が119番に電話をかけ、救急車と警察を必死に呼んでいる
ついさっきまでの爽やかな空気が一変してガヤガヤと騒がしくなっていく中
2度の衝撃で片耳からイヤホンが外れ、薄れていく意識の中でAには倫也の歌声が微かに聞こえていた
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作者名:村民 | 作成日時:2023年2月17日 17時