夢が開花するとき、その色を。

ポンコツ役者の帰還 〜皇天馬〜 ページ10

「ただいま」

「ただいまッス〜！」

帰ってくるなり、太一は談話室へ走っていく。

走ると怒られるが、今はオレもついて行った。

「あ、いたッスよ！」

それこそ犬みたいな笑顔ではしゃいでいた。

…あれ、耳と尻尾が見えるような。

「Aチャン！凄かったッス！惚れ直したッスよ〜！」

いきなり手を握られて、Aはかなり驚いた顔をした。

頭に乗ったぬいぐるみが気になったが、まずは太一を引き剥がした。

オレをじっと見つめて、それが説明を求めているように思えた。

「今日、刃物持った奴を締め上げてただろ」

「…ひ、人聞き悪い…」

思い出したのか、真っ青な顔で反論する。

Aにしがみつかれていた幸が、このやりとりに驚きを示した。

「え、本当の話だったの？」

「え、まだ信じてなかったの？」

幸とAは、従兄妹という割に関係が浅い。

初めて寮で顔を合わせたときよりぎこちなさはなくなった。

けれどお互いに知らないことが多いらしい。

「ていうか２人ともなんで見たの？」

思い出したように幸が聞いてきた。

「あぁ、今日はオフだったから太一とカラオケ行ってたんだよ」

「ふーん」

「いや聞いたんなら興味持てよ！！！」

あまりにも興味なさげに対応され、思わずツッコミを入れてしまった。

こういうところは本当に可愛げがないと思う。

ルックス詐欺。

「Aチャン！いつからあーゆーことできるようになったッスか？」

「…近い」

「あうっ」

顔面にぬいぐるみを押し付けられた太一が、気の抜けた声を出す。

それでも好奇心を抑えない太一から逃げるように、至さんの後ろに隠れた。

「俺っち決めたッス…Aチャンに弟子入りするッス…！」

「…ほんとにやめて」

そしてなんで至さんはあんなにツボが浅いんだ。

2019/11/23

少しお時間をいただけると嬉しいです。→←ポンコツ役者の見物 〜皇天馬〜

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す