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4話 ページ7

リアルワールド西暦2021年より少し前のこと。とある複雑な手順を踏むことでしか辿り着けない、エデン警察本部公安局の局長室の前に立ち、彼女──Aは整えた身なりをもう一度確認し、それからドアを三度ノックした。

「入りなさい」

その声に促され、彼女は滑り込むように部屋の中へと入り込む。窓のない部屋の奥に置かれたデスクの向こうで、彼女の養父であり上司でもある男が待ち構えていた。

「ご機嫌よう、A隊員。新聞社の仕事のほうはどうだ」
「ご機嫌よう、長官。現在異常ありません。……それで、用件とは?新しい任務ですか?」
「ああ。その通りだ──まずはこれを」

渡されたのは、ぺらりと心もとないA4サイズの紙が一枚。簡潔にまとめられた任務概要書の隅々まで、彼女は素早く目を通す。やがて、その視線がある一点でぴたりと止まった。

「……『ローレン・イロアス』?」
「読み終えたかね?その人物こそが本任務での監視対象だ」
「都市警備部隊所属とありますが……監視対象になるような危険人物とは思えません」
「それを探るのが君の仕事だ」

長官と呼ばれた男は立ち上がり、彼女のすぐ側までゆっくりと歩みを進める。

「監視の結果、彼に何もやましいところが無ければそれで良し。だが……彼は"鍵"の一族の出だ」

その言葉に、Aは弾かれるようにパッと顔を上げる。

「"鍵"の?……まさか。一族は数年前の抗争で……それにファミリーネームも彼とは異なります」
「だからこそ調査・監視が必要なのだ。親切な隣人の影に隠れ生き延びてきただけであれば問題はない。しかし、あるいは……」
「……彼を担ぎ上げ、エデンの平和と秩序を崩そうとする者たちが居るかもしれない、と?」
「その通りだ。さすが、わかっているじゃないか」

そう口にする間も長官の顔色はちらりとも変わらない。その言葉が本心からのものなのか、あるいは皮肉を混ぜたものなのか。判断に迷っている間にも長官はまた次の言葉を口にする。

「これは中央政府直々の任務だ。……お前なら、できるだろう」

その声音に彼女は短くため息をつき、胸元に持っていた帽子をパッと頭に乗せ、表情を隠すようにそれを目深にぐいっと引き寄せた。

「──当然。やってみせますとも」
「それでこそだ。……ところで、A隊員」
「はい?」
「今夜は私が夕食当番だが──何が食べたい?」
「……仕事と一切テンションを変えずに聞くの、いい加減やめてくれませんか…………カレーが食べたいです」

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作者名:七福 | 作成日時:2024年3月9日 16時

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