第33話 ページ34
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「______なァ、好き」
ふわり、と中原さんの香りが膨らんで。
その低音は、優しく耳元で広がった。
たった二文字の言葉は、いとも簡単に時間の流れを止めてしまって、耳の奥で大きく揺れる。
そして次に、
_______理解してしまった事を示す紅潮が、更に私の全身を染め上げた
『……な、なか、はら…さ』
喋る事さえままならない
言葉と胸の煩さを押し殺して、縋る様にその名を呼んだ。
だって違うんだ
何度も聞いた、あの意地悪な声色じゃなくて
いつにも増して真剣な芯のある声
思わず帽子をぎゅっと握ってしまって。改めて感じる、真摯な中原さんの存在。
「A、」
________何ですか、なんて返事もできなくて
それらを察しておいて名前を呼ぶのは、それは、“ 狡い ”と言うもので
高が外れた感情は涙腺へと圧をかけてくる。
「顔見せて」
『え、あ、』
それはそれは唐突に。
持っていた帽子に安堵して、真っ赤な顔を押し付けていた。のに、気持ちの準備もなしに取り上げられたら私は__________ほら、案の定
『……み、見ないで下さい』
「やーだ」
___優しい顔した中原さんが、こちらを覗くのだから。
「なあに泣きそうになってンだよ」
『だ、だって中原さん』
こちらは動悸も治まっていないしまだ余韻が残っているのに。近距離で目を合わせて対面だなんて出来るもんか
…でも
口元を手で抑えて足元を睨んだ
『さっき、……あの』
「なんだよ」
『す、好…っ、て』
言葉に詰まる。
言いたくても言い出せない、口がその形をしても、唾を飲み込むだけで
『(……絶対、分かってる癖に)』
毎度毎度の意地悪
この人はこういう人だ。判ってる、それは承知している。
余裕な瞳とぶつかったら最後____ああ拙い。
「ちゃんと言わなきゃ判ンねェなあ」
なんて言うもので。
ほら、まただ。
__________好き、
『〜〜っ』
ボッ、と、思い出した瞬間に再度発火する顔。
けれど同時に
真剣な声色だったのを思い出して
やっぱり有耶無耶なのは良くないなと思いまして
______中原さんの声を聞いた瞬間に、気がついて
この胸の高鳴りを抑えられない訳を知って。
ああ、違うな。もう、私は知っていたんだけど
『______な、かはらさん』
目線を横に宛がって名前を呼ぶ。
回りの音が、この世から一気に消え去ったみたいだった
自分の心臓だけが、最後まで音を奏でていた。
『……私も、です』
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レインボー文豪娘 - このぶっ飛んだ始まりと、「また家を吹っ飛ばしに行く」というセリフが素晴らしすぎました。最高でした。 (4月14日 22時) (レス) @page40 id: d65177cced (このIDを非表示/違反報告)
しおぽんら(プロフ) - テトさんと同じなのですが、プリ小説という小説サイトで活動していますか?設定もセリフも同じなので気になってコメントさせてもらいました。リンクはこちらですhttps://novel.prcm.jp/novel/U7KPVPevcPuDxlQlBkXn (9月2日 17時) (レス) @page1 id: 535c2b64b5 (このIDを非表示/違反報告)
テト(プロフ) - 初コメがこんなのですみません。あの…プリ小説という小説で活動していますか?なにやらプリ小説内で先程こちらと似たような作品を見つけまして…もしかしたらこの作品がパクられているかもしれないのでコメントさせてもらいました (8月30日 15時) (レス) @page1 id: e3b6735391 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫もふお - 神作品ありがとうございますっ!!! (8月18日 12時) (レス) @page18 id: 9c4f5ea239 (このIDを非表示/違反報告)
未栄 - 最高すぎて鼻血出るかと思いました (8月1日 13時) (レス) @page40 id: af42dbf40e (このIDを非表示/違反報告)
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