晴れ ページ43
ずっと触れたかった。
ずっと聞きたかった。
そんな事実知りたくなかったと嘆いたあの日、
初めて帽子さんの名前を知って、厭に名前を呼んで
「…中、原、さん、」
「下の名前で呼ンでくれねェの?」
どきり、と胸が鳴った。
背後から耳元でそう云われて、少し俯いた。
雨が遠くで意地悪に音を奏でるから
それが、余計に近く感じて
「中也さ、」
「A」
_____大好き。
震える声で雨にかき消されない様名前を呼んだ。
その瞬間に、腕は解かれ、後ろを向かされる
傘の中。
小さな空間で退治する、海の様に輝く青色の瞳。
「A、」
見つめ合う距離は僅か。
会いたかった人。
ずっと一緒に居たかった人。
それがこんなに近くに居るの?
ああ、私の事だからきっと、これは夢なんじゃあないか、なんて思ってしまう。
___でもちゃんと、触れられていて。
「……中也、さん。っ、中也さん」
何度でも呼んで
何度でも、
「ずっと云えなかった。
名前も居所も、俺がマフィアだって事も、___俺が、手前の事を好きな事も
だからA、聞かせてくれ」
目元が潤むのに時間は要らなくて。
“互いに互いのことを聞くのは禁止”___そんな掟も破って、中也さんは目を細めて笑った
「A。手前の事、俺が好きになっても善いなら」
手袋のない手で握られた右手。
「明日も、俺の隣で笑ってくれねェか?」
だからぎゅっと、その手を握った。
「泣き虫でも、っ、善いですか、?」
「あァ。そンな手前が好きなンだよ」
「雨が降って居なくても、好きで居てくれますか」
「どンな天気でも側にいるから」
傘の中での約束。
雨の勢いが収まった時、パラパラと降る雨の中
中也さんに抱きしめられ、黒い傘は落ちた。
「もう一回だけ。名前で呼んでください、」
小雨の中心で私はそう云う
隙間から見えたのは、輝く雨粒。
「A、」
「中也さん、好きです」
それがなんだか愛おしくなって、中也さんの言葉を遮って飛び出た言葉
続いたのは
「……っ、これからもっと、好きにさせるから」
中也さんの耳横での声。
私達の頭上。
空では、雲の絨毯の合間から太陽への梯子が掛かっていて、その光を受けた雨粒、まるで宝石の欠片のような、そんな雨を、私はその日初めて見た。
.
「……あーあ、またアイツに貸し作っちまった」
“「之は“貸し”ですからね、」”
雨の止んだ空の先
浮かんだのは、教授のように口煩い、眼鏡をかけたAの上司。
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にんじんさん。(プロフ) - 素晴らしい作品をありがとうございます…! (2019年6月4日 16時) (レス) id: 13fcb4bada (このIDを非表示/違反報告)
白狐(プロフ) - あなたもしや…、中也推しですか!? (2019年1月7日 0時) (レス) id: b607d0f086 (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - 白井なでしこさん» コメントありがとうございます。ありがたい言葉ばかり並んでおりますね笑とにかくありがとうございます!頑張ります! (2018年3月30日 13時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - 月ノ輪さん» ひゃー、お世辞でも嬉しすぎます…。前作もありがとうございます!そのコメントだけで次も頑張れますので期待に応えられるように書いていきますね!コメントありがとうございました!! (2018年3月30日 13時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - ユーナ橘さん» ありがとうございます…!少しでも雨に対する思いが伝わればいいな〜と思います。こちらこそ最後まで読んで頂きありがとうございました! (2018年3月30日 13時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
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