雨 ページ39
違う。
____俺が見たかった顔はそンな、泣きそうな、でも何かを堪えて苦しそうな顔じゃねェ。
気づいた時にはもう、手前の背中は遠すぎて
「くッ…そ……、」
自分のモノとは思えない、か細い声が震えて漏れた。力無く空を掻いた手に残るのは後悔。いつの間にか爪が食い込む程にそれを握って、気づけば視界は雨に埋もれている。
何の色もない世界
ただ目の先で、色の無い傘が転がっているだけだった。
“中原、中也さん___”
いつか手前が、その声で、笑顔で____一度でいいから俺を呼ンでくれたらと何度も願っていた。
けど
「……そうじゃ、ねェよ」
今にも消えてしまいそうな震える声。
俺が望んだのはそンな他人行儀な台詞じゃねェのに
____俺が手前の名前を呼ンじまったから、か?
俺が手前を知った瞬間から、手前が俺を認識した時から、全部崩れて。
何も知らない、名前も呼べない、心に触れる事も出来なかったあの頃、それでも、あンなに幸せだったのに
出会った頃からやり直せれば、
手前との関係が少しでも今と違っていたら、
____雨が降って居なければ。
手を温めることだって
名前を呼ぶことだって
笑い合うことだって、この世では容易いだろうに。
あの笑顔を崩したのは___
「………A、ごめ…」
間違いなく俺だ。
ごめんな。そう云おうとした時、
溜息と共に、目の前でひっくり返った灰色の傘がふわりと宙に浮いた。
「______それは本人に云うべきでは?」
憂鬱そうに、其奴は深く刻まれた隈を細めながら傘を拾って、俺を見遣る
「教授眼鏡じゃねェか、…手前、」
「はぁ、その呼び方止めて下さい。真逆君だったなんて…どう云う巡り合わせでしょうかね。
……君の事ですから一応聞いときますけど___その下の死体」
「あ?此奴らは相討ちで自滅だぜ。
俺が来る数分前ッてところか…」
「____あの子は非常に面倒臭いですよ」
思わず眉を顰めた。
会話のキャッチボールは放棄され、教授眼鏡はその傘を畳みながら俺に云う
「……どう云う意味だよ、」
「ほら見て下さい、この様な灰色の傘、日外君が…Aが使うなんて何年ぶりでしょう」
A___、その慣れた呼び方に浮かぶ文字は上司。
手前が善く話してくれたのは…
「あの子は優しくて我儘で気分屋で能天気で、そう簡単に居ない逸材の努力家で実は弱虫。
___何より何時でも、貴方の事が大好きでした」
何処へ行くにも貴方と雨の事ばかり
やれやれ、そんな風に教授眼鏡は続ける
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にんじんさん。(プロフ) - 素晴らしい作品をありがとうございます…! (2019年6月4日 16時) (レス) id: 13fcb4bada (このIDを非表示/違反報告)
白狐(プロフ) - あなたもしや…、中也推しですか!? (2019年1月7日 0時) (レス) id: b607d0f086 (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - 白井なでしこさん» コメントありがとうございます。ありがたい言葉ばかり並んでおりますね笑とにかくありがとうございます!頑張ります! (2018年3月30日 13時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - 月ノ輪さん» ひゃー、お世辞でも嬉しすぎます…。前作もありがとうございます!そのコメントだけで次も頑張れますので期待に応えられるように書いていきますね!コメントありがとうございました!! (2018年3月30日 13時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - ユーナ橘さん» ありがとうございます…!少しでも雨に対する思いが伝わればいいな〜と思います。こちらこそ最後まで読んで頂きありがとうございました! (2018年3月30日 13時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
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