雨 ページ38
「____帽、子、……さん……?」
「____A、……?」
傘が、落ちた。
.
あの日と同じだ。
降り始めた豪雨の中で、真ん丸く目を見開いた手前は俺を見つめて居る。
なんと無しに出てしまった手前の名前も忘れて、その瞳を見つめ返して、時が止まった様に息を止めた。
此処はマフィアの密売場所だろ、?
手前とまた、俺が会えるはずがねェのに
「……手前、何で此処に……」
それでも縋るように、断片的な声で問うた。
会えるはずがねェ____のに、のに、こんなにも、会えば戸惑って
唾を飲み込めば、手前は瞳を揺らした。
手を伸ばせば届く距離に、手前は居る。
なァ、どうすればいい?
この手を伸ばしてもいいッてンなら、今すぐにでも手前に、この指の先で触れたいのに
「帽子、さ」
手前が俺を呼ぶ
A
そう、返してみるけど
呼びたいンだよ。手前を前に名前を呼んで、この手で振り向かせて
……そしたらまた、笑ってくれるだろ?
「───日外君!」
動いた指はビクリと反応して、瞬時に引っ込んだ。
手前の後ろ____その声に手を握る。
やっぱり駄目だ
俺じゃ駄目なンだよ
きっと泣き虫な手前の事だから、目尻が赤いのは気の所為じゃないよな
誰かの為に泣いて、誰かの為に笑うんだろ?____それが、この俺だとしても。
そんな優しい手前に、俺は触れちゃあ駄目なンだ
なぁ知ってるか?今日で梅雨も明けるッて、
だから、だから手前の記憶に俺が残るように
最後だけ笑わせてくれ
震える位に拳を握って、更に苦しくなる胸を抑えつけながら前を見据える。
手前にだけはバレないように、平気なフリして感情も衝動も抑えて、飄々とした声を振り絞った
「……おい、」
手前はいつでもそうだよな。
息を吸うと、手前とあった頃を思い出した
あの日も手前は雨に当たっていて、俺はこう云ッたンだっけな
───風邪ひくぞ
心配なンだよ。手前は直ぐにミスするし、お人好しだし、泣き虫だから。
殆ど手前の話ばかり聞いた気がするなァ
偶には俺の話も聞いてくれ
最後だから願いでいいか
最後にもう一度、俺に向かって笑ってくれよ
なンて。
声を出した先で歯を食いしばっても、俺達の関係は変わらない。マフィアと内務省の人間。ただそれだけなンだよ
そう、笑った時
ドンッ
「逃げて下さい、中原、中也さん」
「ッ、な」
その小さな手に肩を押された
同時に、手前は____その口で俺の名前を呼んだ。
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にんじんさん。(プロフ) - 素晴らしい作品をありがとうございます…! (2019年6月4日 16時) (レス) id: 13fcb4bada (このIDを非表示/違反報告)
白狐(プロフ) - あなたもしや…、中也推しですか!? (2019年1月7日 0時) (レス) id: b607d0f086 (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - 白井なでしこさん» コメントありがとうございます。ありがたい言葉ばかり並んでおりますね笑とにかくありがとうございます!頑張ります! (2018年3月30日 13時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - 月ノ輪さん» ひゃー、お世辞でも嬉しすぎます…。前作もありがとうございます!そのコメントだけで次も頑張れますので期待に応えられるように書いていきますね!コメントありがとうございました!! (2018年3月30日 13時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - ユーナ橘さん» ありがとうございます…!少しでも雨に対する思いが伝わればいいな〜と思います。こちらこそ最後まで読んで頂きありがとうございました! (2018年3月30日 13時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
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