雨 ページ31
少し昂揚した胸に酔わされて
冷たい指先の感覚も、距離感も口先も鈍ってしまったのか。
「____ち、違うんです!違くて!
この間、のお礼を!貴方のお蔭で私」
順番を間違えた。
そうじゃなくて、_____焦りに焦った弁解は脆く、口は上手く回らない
これじゃあまるで変人だ。
何を口走ったかと我を疑い顔を上げれば、目を丸くしたその人は私を見詰める
「兎に角あの日のお礼が云いたくて___」
「________明日も雨が降れば此処に居るけど」
「……え?」
次に目をぱちくりさせたのは私。
独り言を吐く様に、雨に遮られた空を見遣ってから呟かれた一言はきっと雨の創り出した空耳だ。
だから、
「嘘つくの下手過ぎな」
そんな他人の優しい笑みで、ドキリとする筈が無いのだ。
「へ……」
間抜けな声は顔が赤くなる予兆。
雨で冷えれば善い。何でこんな事で、こんなにも高鳴る胸。
また明日も来て善いのなら素直に来てしまうし、
目の先に居るその人に、甘えてしまう。
「ったく、何時まで其所で突っ立ってンだ?ほら、もっと此方来いよ」
あの日初対面で会っただけ。
傘を貸して返しただけ、だのに口走って
明日も雨が降れば善い、なんて
いつの間にかそんな事を願っているの
*
きっと雨が降り続けても、明日の今頃、私は泣いている。
薄暗い部屋の枕元で唸る携帯の電源を切って、枕に顔を埋めると少し雨の香りがした。
雨粒の名残が窓際にポタポタと落ち奏でる音を聞いて思い出した、懐かしい昔の風景。
たとえ雨が止もうとも
明日、世界が崩れようとも
私はきっと忘れないから。
どれだけ昨日が汚れても、頭に残った小さな過去は綺麗なままでありますように。
雨は止んだ
梅雨は開けて、後は夏の姿を待つだけ。
さようなら。
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にんじんさん。(プロフ) - 素晴らしい作品をありがとうございます…! (2019年6月4日 16時) (レス) id: 13fcb4bada (このIDを非表示/違反報告)
白狐(プロフ) - あなたもしや…、中也推しですか!? (2019年1月7日 0時) (レス) id: b607d0f086 (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - 白井なでしこさん» コメントありがとうございます。ありがたい言葉ばかり並んでおりますね笑とにかくありがとうございます!頑張ります! (2018年3月30日 13時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - 月ノ輪さん» ひゃー、お世辞でも嬉しすぎます…。前作もありがとうございます!そのコメントだけで次も頑張れますので期待に応えられるように書いていきますね!コメントありがとうございました!! (2018年3月30日 13時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - ユーナ橘さん» ありがとうございます…!少しでも雨に対する思いが伝わればいいな〜と思います。こちらこそ最後まで読んで頂きありがとうございました! (2018年3月30日 13時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
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