第8話 ページ8
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車で来たのに
「此処で善い」と、止められた高層マンションに吸い込まれる様に入れば、其処に広がるのは一人暮らしとは思えない洗練された3LDK。
「…………だからって」
『すっごーい!やっぱ広い!流石中原幹部!』
「────なンで俺の家なんだよ!」
後ろでクシャり、と紙袋の潰れる音が聞こえた。
大理石が敷き詰められた玄関を家主よりも先に抜けて────此処、中也の自宅に上がって舞い上がる私は、くるりと後ろを振り返った。
『次の家が決まるまで善いって云った』
「云ッてねェよ今日だけだ」
『えーん私も此処に住みたいよお!……あ、じゃあお金払うからこの家くれない?』
「やらねェよ。なに名案みたいな
うう、くそう。今回の中也を挫くのは流石に厳しいか。
家探すの面倒なんだよなあ、と落胆した私の隣に「此処で善いか?」と荷物を持った中也が立った。
『あ、忘れてた。ありがとう』
「手前なァ……幹部を荷物持ちにさせる奴なんか早々居ねェぞ」
『ふふ、そうなんだ?中原幹部』
「…ふふ、じゃねェし。其れやめろ」
黒い手袋が持つのはヨコハマ駅に置きっぱなしにしていたトウキョウからの私の荷物。はあ、と荷物を降ろせば、中也は肩をぐるぐる回しながら帽子や外套、手袋を外して行く。
「折角だからよ」
ソファに座った私は、
「
ニイッと笑った中也は両手に一本の瓶とワイングラスを持っている。先程、ホテルを出るまでは何処かご機嫌ななめだったのに。今ではもうすっかり悪戯っ子の様に愉しそうだ。
そうだね。大人になってからの楽しみってこう云うものだよね。堪らず私も目を輝かせて、思わず身体をぐるんと其方に向けた。
『善いね善いね』
「朝まで呑もうぜ」
『とか云ってすぐ潰れるでしょ』
「るせェな。だから部下の前じゃあんま飲めねェンだよ」
『えー、中也が一丁前に部下とか云ってる』
「手前なあ、調子乗ってると分けてやらねェぞ?」
『はあい、ごめんなさい』
けたけたと笑いあって、グラスを受け取って、沈むソファ。
脚を広げて隣に座る中也が、其れから一思いに
お互いの抑えられないにやつき面を眺めながら、乾杯、と小さく掲げて、それから喉へと流し込んだ。
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空浮 - 気づいたら全部読み終わってました!めっちゃ感動しました!ありがとうございました (3月26日 16時) (レス) @page45 id: 29094487c6 (このIDを非表示/違反報告)
(3)(プロフ) - この儚い感じがめちゃくちゃ好きです!!なずなの花言葉見て尊敬しました!素敵なお話をありがとうございました!! (9月22日 22時) (レス) @page43 id: 3b6fa5f09a (このIDを非表示/違反報告)
べべべーべ(プロフ) - ぼろっぼろに泣きました。とても素敵な作品でした。中也の立場にも胸が締め付けられました…ありがとうございました (9月12日 19時) (レス) @page45 id: 49ba69b450 (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - aさん» 密かでも死ぬほど嬉しいですここまで長くなってしまい申し訳ありませんでした!並びにお付き合い頂いて本当にありがとうございました!完結できたのは読んでくださった皆様のおかげなので…コメント噛み締めて余韻に浸らせて頂きますね…ありがとうございました! (2023年3月31日 20時) (レス) id: 4197b069bb (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - yuuki Sさん» 最後まで本当にありがとうございました…!何度もコメントくださってとても嬉しかったです。私のモチベでした( ᐪ ᐪ )♡寂しいと言われこちらも寂しくなってしまいました。終わらせるのが惜しいです。本当に最後までお付き合い頂きありがとうございました! (2023年3月31日 19時) (レス) id: 4197b069bb (このIDを非表示/違反報告)
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