第38話 ページ38
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「……手ッ前……、一言余計だ」
「善かったねえ中也君」
「ぼ、……首領まで」
ふふふと笑う首領にたじたじの中也に思わず声を上げて笑った。そうして二人に揶揄われ居心地が悪そうに帽子を握る幹部。「そうだ。折角だから、有島君の帰還祝いに乾杯でもするかね?」と、組まれた純白の手袋が、私に、微笑んだ。
『……!善いんですか?』
「紅葉君も呼ぼう」
『中也は葡萄酒と食器持ってきて』
「手前。俺を何だと思って居やがる」
『えぇ。お願い中原幹部』
「…………。仕方ね」
『芥川君も居るかな』
「おい」
「今日だけ特別に許可してあげよう」
『首領〜……ありがとうございます』
「おいてめ」
「一寸君、今遊撃隊は───」
「…………」
久しぶりの喧騒。久しぶりの実家。
じんわりと温まる胸に口を綻ばせ、指示を出す首領の邪魔をせぬ様、「失礼します」と小さくお辞儀をして出ていく橙色の後を追った。
『───ねえ中也』
「………あ?ンだよ」
『もう、拗ねないでよ』
「俺の何処が拗ねてンだ」
『え?だって顔に書…………ごめんごめん、冗談冗談』
スタスタと歩く本革の黒い高級靴。
隣に並んで覗き込めば、右奥から握られた拳がチラついたのでひらりと掌を返して降参した。
中也は私を一瞥して前に向き直す。
何も云わない横顔を見ながら、私は小さく息を吸った。
『中也。……ありがとね』
葡萄酒の事じゃない。
沈黙の間に浮かべた五文字の行方を、中也もきっと判っている。
「………やっとかよ」
『……うん。まあ。別に、今までと何も変わらないと思うけど』
「は?」
『付き合ってない』
「はァ?」
『だって今更』
「俺の気持ちも考えろ」
『だから中也には感謝してるって、だから』
「手前なァ」
『ちょ、待って待って、最後まで訊いて』
呆れ過ぎて立ち止まり、溜息を吐いて頭をガジガジと搔きだした中也。「この場合は彼奴に蹴りでも入れる方が善いか」とまで呟いて、怪訝に顰めた鋭い目が私を見る。
違うの。そうじゃなくて。
『今更関係を改めたりはしないけど』
其れは、悪い意味じゃなくって。
『私はね、之から何があっても、一生、彼奴の隣に居るから』
離れはしない。そう、判るから故で───。
「……結局惚気けかよ」
『え?違う違う。中也には云っておかなきゃなって』
「巫山戯ンな」
『あ、一寸待ってよ、中原幹部ってば』
「其の呼び方辞めろ!」
『あはは、ごめんごめん───』
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空浮 - 気づいたら全部読み終わってました!めっちゃ感動しました!ありがとうございました (3月26日 16時) (レス) @page45 id: 29094487c6 (このIDを非表示/違反報告)
(3)(プロフ) - この儚い感じがめちゃくちゃ好きです!!なずなの花言葉見て尊敬しました!素敵なお話をありがとうございました!! (9月22日 22時) (レス) @page43 id: 3b6fa5f09a (このIDを非表示/違反報告)
べべべーべ(プロフ) - ぼろっぼろに泣きました。とても素敵な作品でした。中也の立場にも胸が締め付けられました…ありがとうございました (9月12日 19時) (レス) @page45 id: 49ba69b450 (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - aさん» 密かでも死ぬほど嬉しいですここまで長くなってしまい申し訳ありませんでした!並びにお付き合い頂いて本当にありがとうございました!完結できたのは読んでくださった皆様のおかげなので…コメント噛み締めて余韻に浸らせて頂きますね…ありがとうございました! (2023年3月31日 20時) (レス) id: 4197b069bb (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - yuuki Sさん» 最後まで本当にありがとうございました…!何度もコメントくださってとても嬉しかったです。私のモチベでした( ᐪ ᐪ )♡寂しいと言われこちらも寂しくなってしまいました。終わらせるのが惜しいです。本当に最後までお付き合い頂きありがとうございました! (2023年3月31日 19時) (レス) id: 4197b069bb (このIDを非表示/違反報告)
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