第33話 ページ33
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『え、?』
「俺は大歓迎だ。
正直此奴の放浪癖には予定を狂わせられてばかりで対策の仕様が無い。お前の様な者が居てくれたらとどれ程切に願って居た事か……」
『は、はあ』
歓迎されるとは、何事。
「一寸国木田君。私は熱烈な君が見れて嬉しいけれどもう少しAから離れてくれるかい」
「───Aさん!太宰さんのお知り合いだッたンですね!あの後直ぐに帰って来てくれたンですよ!」
「ええ、少ししょんぼりしたご様子でしたけど。ふふ、また会えて嬉しいですわAお姉様」
「ちょ、一寸……谷崎君とナオミちゃん、今私」
『しょんぼり?』
左手を眼鏡の青年に取られ、次には右手をナオミちゃんに取られぶんぶん振られる。そして訊き逃さなかった。
誰が、何だって?
『あんた』
「見ないで」
「捨てられた子犬の様でしたわ。ねえ兄様?」
「ナ、ナオミ……止めてあげようよ……」
見上げた先で視線を逸らす太宰。
急に立場は逆転して、此処の社員である筈の太宰の方が居心地が悪そうである。そんな私達をジッと見詰め、顎に手を置いて悩む敦君がぼんやりと口を開いた。
「……付き合ってるんですか?」
シン、と一瞬で静まり返った現場。
気不味くなった訳じゃない。私達にとって青天の霹靂だっただけ。だから、ぽかんと顔を見合せて、答えを合わせる様に相手に訊いた。
「……付き合って……ないよね?」
『……付き合って……ないね』
「え?」
ぼんやりする私達にはてなを浮かべる敦君達。
「それじゃあ何なんですの?」すかさずナオミちゃんが谷崎君の腕に絡んで首を傾げた。
何、と訊かれても困る。
「一体何なんだろうね」
まるで空でも見ながら溜息を吐くみたいに、鳶色の瞳が悪戯に髪に触れて私を眺めた。
「愛おしいのに傷付けたくて。独占したいのに突き放したりする。そうだねえ。私達はきっと、恋人以上で恋人未満だ」
────「愛って奴は、自 殺志願者が推し量るには難し過ぎるよ」。なんて、呆れ笑いを零す太宰にこっちが恥ずかしくなって思わず赤くなる。
固まった皆。固まって赤面する私。
職場の皆様の前で、手まで繋いで来そうな莫迦。
わなわなと震わせた口で反論しようとした矢先────寝癖のついた頭に、綺麗な拳が落っこちた。
「痛っ」
「こら太宰、惚気けなら家でやんな」
「……与謝野女医……おはようございます」
「もう昼だよ。……全く、こんな可愛い子を連れて来るとはねえ」
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空浮 - 気づいたら全部読み終わってました!めっちゃ感動しました!ありがとうございました (3月26日 16時) (レス) @page45 id: 29094487c6 (このIDを非表示/違反報告)
(3)(プロフ) - この儚い感じがめちゃくちゃ好きです!!なずなの花言葉見て尊敬しました!素敵なお話をありがとうございました!! (9月22日 22時) (レス) @page43 id: 3b6fa5f09a (このIDを非表示/違反報告)
べべべーべ(プロフ) - ぼろっぼろに泣きました。とても素敵な作品でした。中也の立場にも胸が締め付けられました…ありがとうございました (9月12日 19時) (レス) @page45 id: 49ba69b450 (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - aさん» 密かでも死ぬほど嬉しいですここまで長くなってしまい申し訳ありませんでした!並びにお付き合い頂いて本当にありがとうございました!完結できたのは読んでくださった皆様のおかげなので…コメント噛み締めて余韻に浸らせて頂きますね…ありがとうございました! (2023年3月31日 20時) (レス) id: 4197b069bb (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - yuuki Sさん» 最後まで本当にありがとうございました…!何度もコメントくださってとても嬉しかったです。私のモチベでした( ᐪ ᐪ )♡寂しいと言われこちらも寂しくなってしまいました。終わらせるのが惜しいです。本当に最後までお付き合い頂きありがとうございました! (2023年3月31日 19時) (レス) id: 4197b069bb (このIDを非表示/違反報告)
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