第３２話 ページ32
.
「如何だい？私も中々人気者だろう」
『………』
余りの偶然に、私だけが置いてけぼりだった。
喧騒の中でにこやかに笑う太宰の声が降り掛かり、目の前に駆けつけて来た敦君が問うた。
「ええと……お二人はお知り合いなんですか？」
「敦君には如何見える？」
「え」
「おい太宰！仕事とは如何云う事だ此の木偶の坊！
依頼人なら素早く案内せんか！」
「もお、国木田君ったらせっかちだなあ。
この子は依頼人でも心中相手でもないよ」
そして。完全
『は』
反動で、紙袋が音を立てる。
「仕事って云っただろう？今日は皆に紹介したくてね」
ぐいっと揺らめく視界の中で、机に座りながらくっ付き合う谷崎兄妹と目が合った。
「彼女を───」
急に走り出した心臓。
次には、耳を、疑った。
「────
『…………な、』
「───はあ！？！」
あんぐりと丸くなる瞳の中。まるで六年前を彷彿とさせる悪戯っ子の様な顔した太宰が私を見た。
何も訊いていない。何も知らない。
私だけじゃなかった。
業務中の探偵社員の面々も、余りの戯言に呆気を取られ、今迄の動きをピタリと止めて此方を見ている。
何を云ってるの？
何時私が入りたいと。況てや私はマフィアの身。
確か中也が�猗狹曚蕕箸呂劼般綯紊△辰討吻瓩修Α�云っていた筈なのに。
「彼女は有島A。
現ポートマフィア五大幹部の補佐役で元私の補佐だ。
今は誰の元にも付いていない。そうだろう？」
『………知ってた、の』
「嗚呼。この間銀ちゃん達から私の席が残っていると訊いてね。君が居るんだと確信したよ」
一瞬、寒気がした。現役の太宰の声色が蘇る様だ。
耳の後ろで囁かれた言葉と正面から浴びる視線に挟まれて、唾を飲み込む。大体、マフィアからの移籍なんて許される訳がないのに。
「………太宰の補佐だと？」
「うん。私の補佐。鬼より怖いよ？朝から叩き起されるしサボると絶対に見付かるし。
私を手懐けられるのは一生に一度、Aだけだと思うよ」
「それは本当か？」
『……え、あ、はい、まあ……』
手懐ける？何処が。
云う事なんて全然訊かなかった癖に(まあある程度は訊かせたけど)。過去の事を思い出して反吐が出そうになった。
そんな私の手を、切羽詰まって迫ってきた眼鏡の青年ががっしりと掴んで涙ぐんだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 812人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
空浮 - 気づいたら全部読み終わってました！めっちゃ感動しました！ありがとうございました (3月26日 16時) (
レス) @page45 id: 29094487c6 (このIDを非表示/違反報告)
（3）(プロフ) - この儚い感じがめちゃくちゃ好きです！！なずなの花言葉見て尊敬しました！素敵なお話をありがとうございました！！ (9月22日 22時) (レス) @page43 id: 3b6fa5f09a (このIDを非表示/違反報告)
べべべーべ(プロフ) - ぼろっぼろに泣きました。とても素敵な作品でした。中也の立場にも胸が締め付けられました…ありがとうございました (9月12日 19時) (レス) @page45 id: 49ba69b450 (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - aさん» 密かでも死ぬほど嬉しいですここまで長くなってしまい申し訳ありませんでした！並びにお付き合い頂いて本当にありがとうございました！完結できたのは読んでくださった皆様のおかげなので…コメント噛み締めて余韻に浸らせて頂きますね…ありがとうございました！ (2023年3月31日 20時) (レス) id: 4197b069bb (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - yuuki Sさん» 最後まで本当にありがとうございました…！何度もコメントくださってとても嬉しかったです。私のモチベでした( ᐪ ᐪ )♡寂しいと言われこちらも寂しくなってしまいました。終わらせるのが惜しいです。本当に最後までお付き合い頂きありがとうございました！ (2023年3月31日 19時) (レス) id: 4197b069bb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
