第4話 ページ4
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────受け取って、しまった。
「僕はこの上の武装探偵社で働く中島敦って云います。
急いでいてお詫びが出来ないんですけど……何かあったら何時でも来てください!」
『うん。ええと……ありがとう、敦君』
「敦、行くよ」
「ま、待ってよ鏡花ちゃん!あの…はい!また!」
『はは……また……』
“また”か。と、赤い着物を着た少女に急かされてお辞儀をする敦君にぎこちなく手を振った。
もう、街を出歩く気は無かったんだけどなあ。
また此処に来る動機を作ってしまった。
────探偵って云ってたっけ。
探し物をする時は、彼に頼もう。
「すみません、お待たせ致しました!珈琲と台拭きです!」
『はは、ありがとう。頂きます。台拭きも』
ようやく手にした冷たい珈琲。
結露ひとつない
私は其れを一瞬で飲み干して、其所────喫茶うずまきを後にした。
.
「───いらっしゃいませ!」
カランカラン。女性の明るい声と共に、数分後、喫茶店に再度鳴り響く鈴の音。
扉を跨いで店に入った数歩辺りで、お盆と伝票を抱えた女性店員が来店した人物に駆け寄った。
「今日はおひとりですか?」
「いいや、寄る気は無かったのだけど」
「?」
その客は喫茶うずまきの常連で、珍しく連れの居ないその姿に疑問を投げかけたのだが。
期待とは程遠い返答と、その後の質問に、女性店員は見本のように首を傾げた。
「
彼が指さしたのは入って直ぐ、仕切りのようになっている真ん中のボックス席。
机の上には、まだ片付けられていない氷の残った
「……初めて見る方でしたら、女性が一人、数分前まで居ましたけど……」
常連客である彼は、何も残っていない其所を見詰め、「そう」とまるで何かがある様に数秒間眺めていた。
「もしかしてお知り合いでした?」
「いいや?ただ、懐かしい香水の香りがしてね」
彼は呆れ笑って肩を竦めた。
「じゃあ、また皆と来るよ」。二階の武装探偵社員である彼は、其れから砂色の外套を翻して、さっさと扉に踵を返していく。
「……あ、今日こそツケ、払って行って下さいよ!」
─────太宰さん!
名前を呼ばれた常連客が振り返る。
「────ああ。また、今度ね」
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空浮 - 気づいたら全部読み終わってました!めっちゃ感動しました!ありがとうございました (3月26日 16時) (レス) @page45 id: 29094487c6 (このIDを非表示/違反報告)
(3)(プロフ) - この儚い感じがめちゃくちゃ好きです!!なずなの花言葉見て尊敬しました!素敵なお話をありがとうございました!! (9月22日 22時) (レス) @page43 id: 3b6fa5f09a (このIDを非表示/違反報告)
べべべーべ(プロフ) - ぼろっぼろに泣きました。とても素敵な作品でした。中也の立場にも胸が締め付けられました…ありがとうございました (9月12日 19時) (レス) @page45 id: 49ba69b450 (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - aさん» 密かでも死ぬほど嬉しいですここまで長くなってしまい申し訳ありませんでした!並びにお付き合い頂いて本当にありがとうございました!完結できたのは読んでくださった皆様のおかげなので…コメント噛み締めて余韻に浸らせて頂きますね…ありがとうございました! (2023年3月31日 20時) (レス) id: 4197b069bb (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - yuuki Sさん» 最後まで本当にありがとうございました…!何度もコメントくださってとても嬉しかったです。私のモチベでした( ᐪ ᐪ )♡寂しいと言われこちらも寂しくなってしまいました。終わらせるのが惜しいです。本当に最後までお付き合い頂きありがとうございました! (2023年3月31日 19時) (レス) id: 4197b069bb (このIDを非表示/違反報告)
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