第13話 ページ13
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───時計の針は、自分で進める。
『……中也。私補佐やるよ』
委ねた身体をそっと離した。
それから一呼吸置いて顔を上げる。
固まったままの青い双眼は目をぱちくりさせ、それから直ぐに嬉しそうに口元を綻ばせた。
「首領も喜ぶだろうな」
『ふふ、早く働きたくなっちゃった』
「変わらずの
『如何かなあ。私が隣に就いたら、先に厭って音を上げるのは中也の方だと思うけど』
「ああ?耐久勝負でもするか?」
『望むところですよ、中原幹部』
揶揄い合った私達の間に風が吹く。
もう夜も深い。
足元に落ちた吸殻を捨てて、私は窓に手をかけた。
「………後最後に。手前はあンま一人で出歩くなよ」
『何で?』
首だけ振り返って問いかけた。
中也は灰皿に煙草を置いた後、私を示唆する様に口を開く。
「彼奴は今、探偵社にいる」
───ピタリ、と、まるで針が刺された様に固まる身体。
訊き覚えのある“探偵社”という単語。“彼奴”。“今”。
いや……真逆ね。
『……あっそう。まだ生きてるんだ?』
「……本当に何も知らねェのな。まあ、最近じゃあそいつらと一悶着あってな。兎に角気を付けろよ。その状態で彼奴に会ったら今度こそ手前──」
『今度こそ、何?』
余りに可笑しな冗談に思わず呆れた笑いが零れ落ちた。
中也が何を云おうとしたのかは判らないけれど、私はその発言を遮って強く断言する。
──会ったら。
四年前の記憶なんてあやふやで、この街の様に、私の顔や雰囲気だって全く違う。
「…否、ただ、会うなって話だよ」
『会わないから大丈夫』
「ンな無茶」
『大丈夫だってば』
変わらず心配性の中也に、思わず強く当たってしまった。
大きな声を出した後の夜は静かで、何時の間にか中也を見ることは、出来なかった。
大丈夫だよ。
だって、彼奴はそういう男だから。
『……すれ違ったって、どうせ気付きやしないし』
夜風と共に流された呟きは、誰かに向けた訳でもなく。
自分はただ事実を述べただけなのに如何してこうも自ら気まずくなるのか。中也は何一つ悪くない。また少し強気になりすぎた。反省しないと。
『ごめん中也。お風呂、貸りるね』
「おいA…………そう云ッたって」
ピシャリと閉められた窓。
「……ヨコハマは、トウキョウよりも狭ェんだから」
親切な忠告は、聞こえない。
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空浮 - 気づいたら全部読み終わってました!めっちゃ感動しました!ありがとうございました (3月26日 16時) (レス) @page45 id: 29094487c6 (このIDを非表示/違反報告)
(3)(プロフ) - この儚い感じがめちゃくちゃ好きです!!なずなの花言葉見て尊敬しました!素敵なお話をありがとうございました!! (9月22日 22時) (レス) @page43 id: 3b6fa5f09a (このIDを非表示/違反報告)
べべべーべ(プロフ) - ぼろっぼろに泣きました。とても素敵な作品でした。中也の立場にも胸が締め付けられました…ありがとうございました (9月12日 19時) (レス) @page45 id: 49ba69b450 (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - aさん» 密かでも死ぬほど嬉しいですここまで長くなってしまい申し訳ありませんでした!並びにお付き合い頂いて本当にありがとうございました!完結できたのは読んでくださった皆様のおかげなので…コメント噛み締めて余韻に浸らせて頂きますね…ありがとうございました! (2023年3月31日 20時) (レス) id: 4197b069bb (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - yuuki Sさん» 最後まで本当にありがとうございました…!何度もコメントくださってとても嬉しかったです。私のモチベでした( ᐪ ᐪ )♡寂しいと言われこちらも寂しくなってしまいました。終わらせるのが惜しいです。本当に最後までお付き合い頂きありがとうございました! (2023年3月31日 19時) (レス) id: 4197b069bb (このIDを非表示/違反報告)
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