【銀魂】五回目の乾杯で酔えば【坂田銀時】

２．昔の話 ページ7

────高二の春。

委員決めの時に寝ていたら、ヅラに勝手に黒板に名前を書かれ、俺は放送委員になった。

ヅラを一生呪ってやろうと思った俺だったが、今振り返れば俺はアイツに感謝するべきなのだろう。


『私、三年の篠崎A。一年間よろしくね、坂田くん───』。


そこで俺は、篠崎Aに、先輩に出会ったのだから。



……先輩の第一印象は“付き合えねータイプ”。

自己紹介をされた時に、ああこの人はザ・体育会系の人間なのかと、俺の苦手な人種なのかとそう思ったのだ。

当時グレていた俺と正反対なことに、先輩は明るくて、フレンドリーで、努力家で、いつも笑ってて。

誰からも愛される、さぞ順風満帆な人生を送っているのだろう、と。


実際に、先輩は陸上部のちょっとした人気者だったらしい。

『篠崎先輩はうちの花形だよ』と、クラスの陸上部員は口を揃えて言っていたし、その口振りから、男女問わず、“篠崎先輩”を尊敬しているのが分かった。


それを知ってから、俺は尚のこと篠崎Aに苦手意識を持った。

……委員会活動なんかサボってやる。

そう思って、お昼の放送や放課後放送をことごとくサボろうとした。

が、なんとも恐ろしいことに活動の時間前になると篠崎Aが俺の教室に必ず姿を現した。


『サボりそうだから、迎えに来たよ』。


俺が教室以外の場所に隠れていても、必ず先輩は現れた。

先輩曰く『不良の居るところはだいたい見当がつく』。


その尋常ならざる先輩の勘のおかげで、俺は一度もサボらずに委員会活動をするはめになった。

そして次第に、先輩とも打ち解けていった。


俺が抱いた第一印象と違って、先輩は無遠慮な暑苦しさを持つ人ではなく、むしろさっぱりしていて気持ちのいい人で。

そして、いつもどこかに違和感があった。


その正体が何なのか、まだガキだった俺はなかなか気付けなかったが、放課後放送の時、ブラウスの裾から一瞬覗いた先輩の手首に何か白いものが貼られているのを見て、いやに動悸が激しくなった。


『───ん、どうしたの、坂田』

『……先輩、それ……手首、』

『え……、あ、』


先輩が咄嗟に浮かべた表情に、俺はただの怪我ではないと悟った。


『あー……えっと、ちょっと体育でやっちゃってさ。全然大したことないから、』

『喧嘩でもしたのか』

『え、だから、体育で、』

『誤魔化して良いことと悪いことがあんだろ』


先輩は目を泳がせて、どう言い訳したものか考えていたようだったが、やがて腹を決めたのか、俺に視線を合わせ、苦笑いをこぼした。

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