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喉にこびりつき、言葉を発するのを妨害していた“動揺”を、酒と共に飲み下した。
瞬間、美酒特有の、餅のようにふくよかな香りが鼻を抜け、“動揺”の剥がれ去った喉に焼けつくような熱さが広がった。
口内に残ったまろやかな甘みの余韻を味わいながら、空になった猪口をテーブルに置くと、一口だけ酒を呷った先輩と目が合った。
が、すぐにそれは逸らされ、代わりに肩に重い感触が伝わってくる。
突然の出来事に、俺の心臓を跳ね上がり、頬は一気に熱を帯びていく。
「……え、あの、えっと、」
挙動不審になりながら先輩を見やれば、仄かに染まった、美しい曲線を描いたうなじが目に飛び込んできて、俺は息を止めた。……一瞬だけ。
……オイオイ、こういういやらしい感じの“お返し”なのか、先輩の“お返し”ってやつは。
混乱しきった頭。理性と本能がせめぎ合う。
みっともなくどぎまぎしながら、俺はなんとか平静を保って、先輩に問いかけた。
「……これが、その、お返しなんすか……?」
色んな衝動を抑え、先輩の答えを待っていれば、
「……違う」
「……じゃあ、なに誘ってんすか?」
「……それも違う」
じゃあなんなんだ。
「もしや俺を生殺しにして楽しんでんの?」
「生殺し、か……」
そう俺の言葉を繰り返してから、先輩はついに小さい声で爆弾発言をしたのだった。
「……私としては別に我慢してもらわなくても平気なんだけどね?」
今度こそ、思考回路がショートした。
「は……!?」
馬鹿正直に顔を真っ赤にし、声を詰まらせる俺とは対照的に、先輩は静かで。
「……坂田となら、嫌じゃないし」
またも投下された爆弾発言に、俺はひどく狼狽してしまって。
「な……っ、ば、バカ野郎……!!そ、そういう台詞はな、マジで好きな奴にしか言っちゃ……」
先輩と目が合った瞬間をもって、俺の言葉は途切れた。
何故なら、気付いてしまったから。先輩の眼差しの中に、見つけてしまったから。
俺と同じ、密やかな熱を。
「……先輩……、そりゃまさか、」
「今度は気付いたんだ。でも、言わないで」
今度こそ私に言わせてよ、と。
そうじゃなきゃお返しにならないし、と。
肩口から俺を見上げて先輩は苦笑し、そして綺麗なその瞳に俺を映したまま────。
「好きだよ、坂田」
それは、俺にとってどんな言葉よりも価値のある言葉だった。
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Physics(プロフ) - ひなさん» ひなちゃん、ありがとう!!私も最近テスト前で低浮上だから、気にしないで!そう言ってもらえて、ハッピーエンドにして良かったって思えました(*^^*) 今後とも宜しくお願いします! (2018年2月25日 16時) (レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
ひな(プロフ) - 完結おめでとうございます!!最近ら低浮上だからお祝いのコメするのが遅れてしまった……(。ノωノ)ごめんね…最初から最後までドキドキしながら見てたよー。最後はハッピーエンドで終わって良かった!!私まで幸せになったよ!沢山のドキドキをありがとうございました! (2018年2月15日 22時) (レス) id: 843e6f4730 (このIDを非表示/違反報告)
Physics(プロフ) - 枕崎さん» ざっきー、ありがとうござりまする!設定を気に入ってもらえて嬉しいです、コーハイ銀さん美味しいですよね(^q^)オトナな銀八先生もクラっと来ちゃいますけどね!そして、素敵な愛の告白をありがとう!笑。もちろん私も大好きだぜ(*´∇`*) (2017年12月29日 21時) (レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
枕崎(プロフ) - おめでとう、と言おうと思ってたら遅れてました(゚ロ゚)ぴーちゃん新作とかおめでとうございます!!私は銀さんを先輩として愛でたいタイプなのでこの設定めちゃんこ好みです!!応援しているので無理はしない程度に頑張ってね。貴女の事が大好きな女より(やめろ) (2017年12月29日 11時) (レス) id: 3bcc06a411 (このIDを非表示/違反報告)
Physics(プロフ) - ひなさん» ありがとうございます!!さすが、ひなちゃんの脳内には銀さんが生きてるんですね!笑。これから色々深夜枠チックなことをしちゃったりしますが、楽しみに読んでいただけると嬉しいです!頑張りまーす! (2017年12月24日 21時) (レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
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