【銀魂】五回目の乾杯で酔えば【坂田銀時】

３．センパイゴコロ ページ12

連れ込み宿のエレベーターを出た後。


『俺、高校時代、アンタが好きだった』。


分かっていた告白に、「うん知ってる」なんて振り返らずにつまらない答えを返した私。

どうして、あの時「私も好きだったよ」と振り返って笑えなかったのだろう。

どうして、そんな簡単なことが出来なかったのだろう───。


「────きさん、篠崎さん、」


背後で響く声に、我に返った。

はい、と返事をして振り返ると、社内で“おつぼねさま”と陰口を叩かれている古参者の女性社員が立っていた。


「『はい』じゃなくて、コピー、」

「え？」

「コピー、終わってんなら、とっとと取ってってくれる？後がつかえてるんだけど」


苛立った口調にはっとして前を向くと、たしかにコピーは全て終わっていた。


……そうだった、コピー中だったんだった。


私はあわてて印刷物を取ると、“おつぼねさま”を始めとしてコピー機の前に並んでいた三人に頭を下げた。

そして、いそいそと自分のデスクへと早足で歩く。


「……篠崎さん、大丈夫？」


コピーの列の最後に並んでいた、同期の友人が気遣わしげに私を見ていた。

すかさずこちらに寄ってきて、小声で囁く。


「……なんか、今日、ぼーっとしてない？」

「あー……ちょっと考え事してて。うん、でも平気だから心配しないで」

「……そう……？」

「うん、もうすぐで仕事納めだし、頑張ろ」


笑顔を見せると、友人はほっとした様子で小さく手を振り、列に戻った。


自分の席についてから、私はふう、と溜め息を溢した。

午後の日差しに照らされたデスクは少し散らかっていて、新年の前に片付けしなきゃなあ、なんて。

そんな暇ないのにね。

カーディガンの裾を捲って腕時計を覗けば、時刻は４時過ぎを示していた。


……もうひと頑張りだ。


ぐーっと伸びをして、パソコンを起こした。

四時間後のことは、頭の隅っこに押しやった。

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