b.04 ページ20
『好き』
ふと溢れた言葉は一番星の様に微かに、でも確かに光って消えた。
顔が赤くなるのを感じる。
可笑しな言葉で誤魔化してしまおうか。
でもだめ、ここで言わなきゃ一生言えない。
そう思った。
『恋人になって下さい』
消え入る声でそう言い放つ。
俯きながらの沈黙に耐えかねて顔を上げると、二つの黄金色と視線が交わった。
「君っていつもほんと急、心臓に悪い。」
イデア・シュラウドは、ため息を吐く様に言い、そしてこう続けた。
「こ、これからよろしく」
その瞬間、完全に日が落ち夜風が吹いた。
『私でいいの…？』
「A氏がいいの」
ほら行くよ、と私に靴を履かせ照れたように立ち上がった。
まだ信じられない。
目の前に立つ彼は今日から、今から私だけの恋人なのだ。
足に力を入れて立つと、ずっと同じ姿勢でいたからかふらついてしまう。
「だ、大丈夫？痛くない？」
先輩は手を差し出す。
『やだ恥ずかしい！！』
「心の声漏れてますお嬢サンw」
なんて言いながらも手を取り合う。
その後はお店に入って今日はなにが美味しかった、なにが楽しかった、そんな事を話した。
側から見れば私達は朝からなにも変わっていないだろう。
しかしそれは間違いである。
なんにせよお互い初めての恋人。
探り合っているのだ。
『そう言えば先輩、この前ドタキャンした日女性と会ってましたよね。私と付き合っちゃって良いの？』
「げっ」
『どうなんですか？気になるんだけど』
返答次第でカップル破局RTA最速になる。
「…母さんだよ」
『え？』
思わず食事の手が止まる。
あの高くて甘い声が母さん？？
『う、嘘でしょ？嘘にしてももっとマシな事言いなよ』
「これガチです」
そう言い徐に携帯を取り出す先輩。
ほら、と見せてきたのは動画だった。
「イデくーん！見てる？なかなか実家帰ってきてくれないからママから会いに行くね♡」
あの時の女性の声だった。
しかし声の主はフルフェイスヘルメット装着だった。
「あ、見て見て！家の人感センサー改良してパパのボイス付きにしちゃった〜」
顔は隠れているものの小柄で成人の息子がいるとは思えない可愛さだ。
でもこの人が先輩の母親だということが、何故だか妙に納得できる。
「普通引きますよねこの年で母親に世話焼かれてるとか…」
『っ良かった〜！破局RTAルートじゃなくて』
「えぇ…いいんだ」
引きずっていた悩みが無事消滅した私は、勢い良くアルコールを飲み干した。
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作者名：Matyu | 作成日時：2023年9月19日 21時
