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「それで今日の家庭科は――――」
「ああ、ほんとに面白かったよな―――」
「そうなんだ、それはすごいね」
他愛の無い内容。颯天にとっては、すべてが事務的に"暗記"されていくだけの、ただのデータの書取り作業。
きっとこれから一度も思い出されることなく、かといって色褪せることも無く、不燃物として颯天の中に残っていく。
「あ、ごめんね。もうこんな時間だ。
そろそろ私たちは帰るね。」
「バイバイ」
「また明日」
「じゃあな」
いつの間にか空は赤く染まり、雲は美しい赤色に輝いている。どこにいるのかは分からないが、蛙が合唱を始めた。
「じゃあね」
昼間は物々しい雰囲気を出していた巨大な門が、強い夕日に朽ちた門のように寂しげに頼りなく聳えていた。三人は律儀に門番にお辞儀をすると、再び颯天に手を降って軽やかな足取りで去っていく。
彼らの背が見えなくなるまで見送ることもなく、颯天は暑苦しい夕日から逃れようとしていた。
「明日、本当に来るよな」
即座に苦無に手を伸ばそうとして、止める。
去っていったはずの宿名がいつの間にか、踵を返した颯天の後ろにたっていた。
「うーん、どうだろう。
また明日のようすだな」
「別に今日も調子が悪い訳じゃなかったんだろ?」
ただの能天気だと認識していた宿名が鋭く問いかけてくる。
「まあ、正直そうだよ。
でもね、事情があるんだ、こっちにも」
「話せねぇのか、俺達友達だろ?」
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作者名:霜夜 椿 | 作成日時:2018年6月14日 6時