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「じゃあ行ってこい」
「はい、行ってきます」
呑気な声をあげて屯所の門をくぐり抜けていくのは颯天だ。
今日、颯天は学校に行くのだ。
先日の一騒動の後、土方は大変な手続きをふんで颯天の戸籍をつくり、学校に所属させた。一応里親は近藤になっている。一応まだ二十代の近藤は「もう子持ちかよ!」と嘆いていたが、誰かにその叫びが相手にされることはなく、颯天は松平の指示通りに動いていた。
そして「所属だけでいい」と言われているものの、一度顔を出すだけ行ってこいといわれて、今まさに向かっているところだ。
「今どき、制服がねぇなんて珍しいな」
学校の屋根がビルの隙間から覗き、颯天は静かにそれを見上げた。
颯天が行く"江戸中央学校"は緩い学校である。小等学校、中等学校、高等学校が併設されている大きな学校だ。だからといって偏差値が高いかと言われれば難しいところで、この学校は生徒の自主性を大切にしている。そのため通っている者も金持ち・天才肌・ただのバカ、と個人差が激しい。
「理事長が天導宗の御人と繋がってるって噂だが、いい趣味してんな」
私立ではないため、入ってくるのは幕府からの僅かな金。どう上手くやってもこれだけの設備の整った学校を回していくには足りないはずだ。
天導宗と繋がりがあるからといってわざわざ大金をガキのために使うなんてどれほどの教育熱心なのか。それとも気持ちの悪い趣味のある人物なのか。
学校の敷地の外周を走っている生徒らしき人物たちに道を譲りながら、指はゆっくりと腰元に密かに吊り下げている苦無を撫でていた。
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沖田ファン - プロフィールの高杉晋助の漢字が違いますので、訂正お願いします。 (2019年3月2日 15時) (レス) id: a06ab380f4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:霜夜 椿 | 作成日時:2018年4月8日 9時