JUKE BOX (ページ6)

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#02 Into your eyes/ nozomu.k ページ6

思えば、昔からこのコロコロ変わる表情が好きだった。百面相なんてそんな数じゃ足りないくらいの色んな表情が高校生の、平坦な道を歩いてきただけの自分には刺激だった。

コーヒーを飲むたびに何故か彼女はため息をついて、僕を見つめた。

「飲まれへんから飲んでって言いたいん？」

そう聞くと、彼女は俺をゆっくり見て、こくっと頷いた。

「じゃあ何で見栄張ってん。」

そう笑うと、

「なんか飲める気がしてん。」

「さっきは変わってへんって言ったけど、小瀧くんに会って大人になってて…そんな小瀧くん見たら自分も大人になった気がして、飲めるんちゃうかなって…。」

「そう…思ってん。」

と彼女は少しずつ吐き出すように言った。
子供が大事なことを言うときのように、何か決心するように言った。

「小瀧くん…カッコよくなったね。」

「いきなりやな…絢芽はやっぱ変わってへん。」

ドクンドクンと徐々にペースを上げる心臓を誤魔化してそうからかうと、"嫌味？" と顔を上げて笑った。

「ほんまは、さっき声かけられたとき誰か分からんかってん…綺麗な人やなあってことしか。」

「嘘…。」

「本当。」

「もう…年上からかわんといて。」

昔からこうやって、彼女は歩み寄ろうとすればするほど "先輩" とか "年上" という言葉で俺を遠ざけようとする。

「からかってへん。」

目を見て、そう伝えると彼女は何も言わずにじっと俺の目を見つめて "やっぱり何も変わってないみたい" と言った。

気がつけば、夜も深くなり終電の時間が近づいていた。

「もうそろそろ帰ったほうがええんちゃう？」

「うん…。」

「出よか？」

「うん…。」

俺の後ろで財布を出した彼女はさっきよりも小さくなったように見えた。

「俺、払うから。」

「いいよ。」

「払わせて。」

「じゃあ…ごちそうさま。」

店を出て、駅に向かう途中裏路地に入った辺りで彼女は俺の袖をキュッと握った。

「まだ帰りたくない…。」

声を震わせた彼女の手を、できるだけ優しく離した。彼女は驚いたような顔をして、その直後、何かを悟った顔で笑った。

心の中で何度も鳴り響く好きの気持ちと、その想いを伝えてはならない苦しみに目が回り、
気がついた時には腕の中に彼女がいた。

「絢芽の嘘つき。」

コーヒーのことも、例の"彼氏"に対する本当の想いも、子供みたいに見えて大人な所も全部全部嘘つきだ。

そう思えば思う程、揺れる彼女の姿に抱きしめる腕は強くなっていた。