JUKE BOX (ページ3)

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#01リッツパーティー takahiro.h ページ3

その日はいつもより仕事が早かった。

家に帰って寝る前、ベッドの上でケータイを開くと彼女から"電話してもいい？"とメッセージが来ていた。

寝ているかも…と思いながらも"大丈夫"と送ると、珍しく既読がすぐについて、すぐに電話が鳴った。

「もしもし。」
「もしもし。2回目やね。」

少し照れたように笑う彼女。

「せやな。寝てなかったん？」
「うん、24時までなんも来んかったら寝よう思っててんけど…タイムリミットの1分前に返事来てびっくりした。」
「そうなんや。」
「うん。」
「それで…どうしたん？」
「あ、うん。あのね、言いたいことあってん。」

あぁ、別れの挨拶か。そう思った。
当たり前だ。ほったらかし続けだから。
それは近くにいる毎日会う男に心変わりするのが当たり前だ。

「別れたい？」
「え？何言ってるん？」
「杏奈、俺と別れたい？」

少し重すぎたかもしれない。

「そんなわけないやん。」
「やんな…え？」
「うちはずっとたーくんのことだけが好きやで。別れたいなんか思ったこと一回もないで。たーくんはうちと別れたいん？」
「別れたくない…。」

泣きそうになる。
こんな俺にはもったいなすぎるくらいいい彼女だ。

「よかった…。あのな、たーくん。うち思ってん。会いたいなって思った時、うちにはたーくんが。たーくんにはうちがおらんやろ？けど、そうやって寂しいのも辛いのもお互い様やねん。せやから、そういうの2人で半分こできるようになったら嬉しいな…って。重い？」

そう一言一言大事そうに呟く彼女の声がいつもより寂しそうで、ああ、ほんとはいつも隣にいてほしいんだと気づく。

「ううん、全然。俺もそう思う。なぁ、杏奈。会いたいよ。」
「ふふっ、うちも会いたい。」
「今日はもう寝えや？夜更かしはお肌に悪いで。」
「せやね…たーくんも。おやすみ。」
「うん。おやすみ。」

次の日、朝起きていつもより少し早く家を出た。
14時の電車に乗るために休みもせずに、ひたすら仕事をした。
会いたかった。どうしても会いたい理由があった。伝えたいことがあった。

職場を出て、駅に着いて、電車に飛び乗った。
言いたいことを纏めようとしても、纏まらなかった。纏めたいことが多すぎて、一つしかない頭じゃできなかった。

彼女の家の最寄りの駅で降りて、花屋さんでお姉さんが花言葉は「あなたを大切にします」だと教えてくれた白のアヤメを一本買った。

彼女のもとへ向かう足はまるで飛んでいるかのように軽やかだった。