あんたは大事なお嬢様 ページ46
泣かせたことなんて一度もなかった。(ベッドの外では)
気丈な奴が崩れ落ちて泣いてる。多分俺のせいだ
こんな時は執事としてどうするべきなのか、ちっとも思いつかなくて、たしかにAの言う通り
俺は執事失格だ。
自分でそう思ってたけど大事に育てたお嬢にいざ投げつけられると結構痛い。泣きたいのは俺の方だ。
知りもしない男に奪われる。
ずっとそばで見てきて、傷つけられないように、転ばないように手を引いてきたのに。
なるほどたしかに沖田家に女しか生まれなかったのは正解だ。こんな間違いが起こるのは俺が男だから。
お嬢相手に汚い感情を持ち
婿殿に嫉妬するなんて
こう言う時どうするのかばあちゃんは教えてくれなかった。
「お嬢様。明日は役員会議でさァ、早く休んでくだせェ」
震えた肩に触れることもせず一歩近づくこともしない。失格と言われてもそばに居るためには執事を演じなければ。
そんな浅はかな俺の考えを知ってか知らずかAは俺を睨みつけて風呂場へと走り込んでしまった。
「くそっ」
Aの命令でオールバックにしてあった髪の毛をかき乱す。
やらなきゃいけないことは山ほどあるのに黒い感情は胸を蝕んで悪い考えを呼ぶ。
嫉妬に駆られた執事がお嬢を連れ去って消えるなんて昼ドラじゃねぇか
考えを振り払うようにアロマを焚いて部屋の電気をオレンジにする。
「好きなんだよおめぇのこと」
テディーベアーに言ったって仕方がないのに
あまりにも滑稽な自分の姿に涙がでちまうっつーの
喧嘩さえしなければ今日はこのシーツを取り替える羽目になっていたのに明日の仕事が一つ減ってしまった。
全ての準備が整ったころAは当てつけのように一糸纏わない姿で出てきた。
「お召し物は用意してありましたが?」
いつもは自分で乾かさない髪もすっかり乾いて俺の言葉なんか全く無視で布団に潜り込む。
ついため息を漏らしながら、背を向けたお嬢に深々とお辞儀をすると俺は電気を落として部屋を出た。
「はぁ」
閉ざした扉のプレートが目に入って再びため息。
0708号室。スイートの番号は6120だったのをAが立場を利用して取り替えさせたんだった。
__沖田と私のための部屋だからね__
扉を背にホテルの廊下に座り込んでも最上階のここには誰もこない。泣いてる顔なんて誰にも見られはしないことだろう。
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ミユ(プロフ) - パスワードを教えてほしいです! (2018年8月13日 1時) (レス) id: 9c5031f758 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:愛総 | 作成日時:2017年8月18日 3時