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「ん、血の匂いだね」
まるで懐かしい家の煮物の匂いを嗅ぐようにAは深く息を吸い込んだ。
目が悪くなってから鼻がめっぽう良くなったらしい。
「ちょっと汚れちまった」
「相手の血?総悟の血?怪我してるでしょ」
「よくわかったな」
「いくら目が悪いって言ったって肩が包帯で白くなってるのは見えるよ」
「そりゃそうか」
ふわりと微笑まれて不意に胸が苦しくなる。
ほんとにこいつは変わってない1番変わったのに変わってない。
立てなくなって髪の色は抜けて目が悪くなっても気にするそぶりを見せることなく前と同じように「全て分かってる」と優しい笑みをうかべる。
俺の方が泣きたくなった。
「総悟?」
「ん?」
ちょいちょいと手招きされてベッドの上に腰掛けると冷たい手が包帯に優しく触れた
「痛いの痛いの飛んでいけ」
「ぶっは、ガキかよ。それにそんなに痛くねぇ」
「違うよ心が痛いの痛いの飛んでいけだよ」
なぁ、そこまで分かってて、どうして心が痛ぇのかわからねぇの?
お前が俺の笑った顔を見ようとして細めた目とか
胸のあたりをさするか細い手とかが
1番痛ぇよ。全部変わってやりたいって気持ちはなんで分かってくれねぇんだよ
言ったところでお前は怒りもせずにまた笑うから遣る瀬無い気持ちを押し込めてAの胸のあたりに頭を押し付ける。
「ガキじゃん」
「お前のやり場のない母性を発散してやってんの」
「ふふ、よしよし」
Aの胸のあたりに広がった髪に細い指が通る。俺はAの好きなようにさせて、俺は俺のために一心に心臓の音を聞いた。
まだ大丈夫、心臓は血の配達をやめてない。
白跙にかかって一年生きる患者は少ない。
人間には手の施しようのない未知の病にいつこいつの蝋燭の火が消えてもおかしくない。
それを考えるだけでたまらなく眠れない夜がある
目を閉じているだけで押しつぶされそうになる
Aは怖くないのか
「俺、今日は泊まってく」
「だめ」
「なんで」
「ベッドが狭い」
「ソファーで寝る」
「門限…」
「23歳だぞ門限なんてねぇ」
「病気移るかも」
「毎日来てて今更?」
「ほんとは!マスクだってしてほしいし、来ない方が……」
「俺に会えなくても?」
「だから…申し訳ないって」
「お前は外に出てねぇから知らないかもしんねぇけど移らないって判明した」
「うう、しょうがないな」
嘘をついた。何もわからない未知の病。移るならそれでAと一緒ならいい。
口に出さずに白い髪に手を伸ばす。
「髪梳かすぞ」
「…お願いします」
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ミユ(プロフ) - パスワードを教えてほしいです! (2018年8月13日 1時) (レス) id: 9c5031f758 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:愛総 | 作成日時:2017年8月18日 3時