君がかけた最後の呪い【沖田総悟】

沖田総悟の贖罪 ページ38

「で、何の用ですかィ。そもそも、非番の日に何時まで寝てよーが俺の勝手だと思いやすがね」


「話を聞けばどのみち飛び起きてただろーよ」


土方の懐から１つの封筒。表紙には見慣れた文字で沖田総悟様と書かれている。

はて、まだ思い出していない手紙でもあったか。
沖田が封筒に手を伸ばす前に「待て」と声がかかった。


「はぁ、なんですか土方さん」


「これはAの遺言だ。これを読む前に、少しお前の話が聞きたい」


「話すことなんかありやせんよ」


「俺たちはAとの約束を破って、お前の願いを聞き届けた。もう腹を括ったつもりだったが、あいつまた新しい選択肢を用意してきやがった」


コトリ、封筒の横に並べられたのは沖田にも見覚えのある小瓶。貴重な代物がこうもポンポン出てくるのはおかしいが、間違いなく忘却薬である。


「今度は、お前が決めろ。もし、Aの事思い出して今辛いなら。手紙を読む前にこれを飲め」


Aが亡くなってから1年経っている。この薬さえなければ沖田も立ち直ってる頃だったかもしれないし、そうじゃないかもしれない。


「俺ァこんなに苦しい思い姉上の時で最後だと思ってやした。それどころか2度もAを亡くした様なもんでさァ」


「……」


土方も少し責任を感じているのか、粗野な言い方にも口を挟まなかった。


「でもそもそもは、俺があいつに言った事なんでさァ。"俺が死んだら綺麗に忘れろ"って。全部自分で招いた事」


「Aはお前に罪の意識なんか感じて欲しくないから、こっそり飲ませたんだろ？まだウジウジそんな事言うならさっさと飲んであいつの事なんが忘れちまえ」


土方はわざと嫌な言い方をした。昔みたいにカッとなって殴りかかってくる沖田はもういないけど、睨みつけた目はもう答えそのものだった。


「忘れたくなんかねーよカス。V字ハゲ。辛いのも、苦しいのも誰にもくれてやりはしねェ。これはあいつが俺に残したもんの１つでィ」


啖呵を切って忘却薬を掴んだ沖田はそれを中庭に投げ捨てた。
銀時の一年の苦労は土に染み込んでいく。


「んじゃ、まぁ礼ぐらいは。有り難うごぜえやす」


沖田は勢いよく封筒を取って部屋を出て行く。
まるで楽しみにしていた文通がやっと届いたかの様な後ろ姿に土方は笑い混じりのため息をついた。


「ったく、本当にお前らは世話ばっかりかけやがる」


今度墓前に恨み言を綴った手紙でも備えてやろうか。なんて考えながら新しいタバコを咥えると。それは線香の煙の様に上へ上へと立ち上って行った。

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