君がかけた最後の呪い【沖田総悟】

それは無情にも流れるもの ページ29

それから沖田は約束通り毎日病室へ通った。

Aも毎日とは言ったものの、全てほっぽって訪れていたことに関しては仕事が優先する様に叱った。
要するに沖田の慰めになる様にあんな事を言ったのだ。


だから、仕事がある日は1時間ほどだったがそれでも沖田は必ず顔を見に来る。


しかし、病院で特段やることもないAの一日は長かった。

残された時間は短いのに今手元にある時間は有り余るほど。矛盾している。


「よっ。Aちゃーん」


そんなAの元によく訪れていたのが万事屋、坂田銀時だった。


「こんにちは万事屋さん」


器用に沖田のいない時間を縫って、死の匂いの強いその建物に外の風を通しにくる。


「本とか読むタイプなんだ。なに読んでるの？」

「元々はそんなに読まないんですけど最近ハマってて。転生モノ」


手にあるそれにはカバーがかけられていて、なにを読んでいるかはわからない様になっていた。


それもきっと沖田への気遣い。


「本当は怖いので。生まれ変わったらなにになれるかなって考えられる様に」


空気を読んで銀時は心配も同情も一切見せなかった。


「何になりたいの？悪役令嬢とか？？」


「んー猫とか」


「決めてないなら決めてないでいいのに」


「あはは、バレてましたか。恥ずかしい」


恐怖を隠すブックカバー

今万事屋しか見てない涙

時計もカレンダーもない部屋

そして首から下げた小さな小瓶


この病室の全てがAの恐れと沖田への愛情で溢れていた。


「来世なんて考えられないくらいに、ずっと彼のそばに居たいです」


「そうやって伝えてやったらいいんじゃねーの？」


「総悟には内緒です。辛い顔なんてさせたくないんです。少しでも多く彼の笑った顔を覚えていたいから」


「Aちゃんがそうしたいなら好きなようにするのが一番だな」


「心が辛いのも、苦しいのも、総悟が好きだからで。そして、それが生きてるって事ですから」


「でも、沖田くんは気付かないフリなんかしてくれないくらいAちゃんのこと愛してると思うよ」




日が沈む。今日は沖田は遅くにやってくるだろう。
そしてまた1日が終わっていく。



残りの時間が過ぎるのを恐れる日々の中で
指折り会える時間を待つ



「あぁ、１つ転生したいものを思いつきました」

「なになに」

「時間を止められる能力者」

「主人公間違いなしだなそりゃ」


さしたらきっと、2人の時間を永遠にできたのに。
過ぎるのを待つことも恐れる事もせず。


どうか来世は、この世で一番残酷な物から逃れる術を

秋の夜長→←暑さ厳しい折

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す