君がかけた最後の呪い【沖田総悟】

命の期限 ページ26

「A、大丈夫か」

「十四郎。みんなが武州を立った日のこと覚えてる？」


病状の改善は見込めないこと、そして3ヶ月という宣告。ターミナルケアへの移行。
医者からそんな話を聞いたあと、土方とAは病室から夏の夕立を眺めている。


沖田がいないことを気遣ってか、病気のことに関してか、土方がかけた心配の言葉とは違う話が始まった。


「あの時、十四郎がミツバには自分のことを忘れて欲しいって言ってたの私はわからないって言ったじゃん」


「あぁ。そんな事もあったな」


「今なら、わかるよ。総悟が、このまま病室に顔を出さないなら……それで私のことわすれ、てくれるなら」



Aが俯く。土方からは顔は見えなかったが布団にはポタポタと雨が降った。



「まだまだガキだろ。そんな早く大人になろうとしなくていい」


「忘れて欲しいって、本当に思ってるの！思ってるのに……会いたくなっちゃう、なん、て。
あと、3ヶ月し、か一緒にいられないなんて」



土方には継ぐ言葉が出なかった。

ミツバの死に目に無情にもその旦那を粛清していた自分には、病室に顔を出さない沖田のことを責められない。



「忘れて欲しいかどうかなんてお前がどうにかできる問題じゃない。だから、そんなこと考えるな」

「ううん。これは、私が考えなきゃいけない問題なの」



この時の土方にはそれがどういう意味かわからなかった。「忘れるか忘れないかなんて時の流れにしか操れない」そう思っていたから。

まさか、A自身がそれを決められる力があるとは。



「会いたいなら、俺が連れてくる。絶対に」

「ううん。いいの、総悟に決めさせて」


それから何度も血を吐いた。循環機能が弱ってきてるらしい。その間も、沖田は病室に来なかった。


忘れて欲しい、忘れて欲しくない


会いたい、こんな姿見せたくない


こんなに苦しいならいっそ死んでしまいたい、もっと長く生きていたい



「十四郎。もし、そうごが…私のこと、忘れたら…そのまま、にしてあげて」


絞り出すような声がした。自分の言葉に一番自分が傷ついているような。


「おま……本気で言ってんのか？」

「うん。やくそ、くしてくれるよね？総悟に、は内緒で」

「それで、Aが。満足するなら……」



脳の機能まで止めてくれればいいのにとAは恨んだ。相反する二つの感情がいつまでも静かな病室に渦巻いている。



「転院する時に私の部屋にある荷物持ってきて欲しい。特に鍵のかかった箱があるからそれも」

「わかった」


夕立がうるさい。
きっと夜には上がるだろうけど。

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