君がかけた最後の呪い【沖田総悟】

武州と江戸 ページ14

8年前
沖田達が江戸に立つその日の朝。
まだ誰もいない道場の縁側に土方とAは座っていた。

「十四郎、ミツバにちゃんと気持ち伝えないの？」

「わかってて聞いてんだろ馬鹿」

「いじっぱり」

「良いんだよ。あいつには、俺のことなんか忘れて幸せになってほしい」


土方は遠い目をしながら言う。Aはその横顔を見ながら2人に自分と沖田の姿を重ねていた。


「忘れて欲しい？覚えてて欲しいものじゃないの？」

「まだまだガキだな。Aにもいつかわかる」


ぶっきらぼうな愛情は武州に置いて行くのだと。

"十四郎は忘れないくせに"と言う言葉を飲み込んで何を見てるのか目線の先を追いかけるが、土方が見てるのは此処ではないどこかだと言うことしかわからなかった。


「おい、行くなら起こせよ」

意外にも2人の次についたのは沖田だった。


「ま、人に言う前に自分のことをどうにかしろよ」

空気を読んだ土方はそれだけ言い残して奥に消えていった。


「あいつと何話してたんだよ」

「別に」

「お前は沢尻か」

「うざい」

「なんだよ機嫌悪いな。最後ぐらい可愛く笑ってみろよ」

「……最後なんて言わないでよ」

「ん？」

Aの言葉はあまりにも小さくて沖田には聞こえなかったが聞き返しても2度は言わなかった。


「お前、俺がいなくて寝れるかなぁ。トイレにも1人で行けないし」

「いつの話してんのよ！」


遠い。あまりにも。幼馴染が1人先へ行く。江戸と武州の距離よりも心は遠くに行ってしまう気がした。


「後でちゃんと笑顔で見送ってあげるから。後で」

「江戸って、意外と近いんだ。いつお前が来ても案内できる様にしておく」


気を使われたのがわかって、それが尚更沖田を大人っぽく見せて。Aは継ぐ言葉が出てこない。

そのうち段々と皆んなが集まって、2人だけの時間は終わった。
全員分の道中の軽食を握ってたミツバは最後に来た。


「それじゃあ、行ってきます！」

Aは久しぶりにミツバの手を握りしめて、背中を見送る。

最後は笑顔で、約束したから。ちゃんと言わなきゃ……ちゃんと。


「総悟手紙書くから返事してね。それからちゃんと夜に寝ること！」


一行が立ち止まって振り返る。
沖田は片口をニヤリとあげてから返事をした。


「お前はオカンか」

それだけ残して男達は武州を去った。
もう振り返らずに

「総悟、好きだって言っとかなくてよかったのか」

「江戸で成功したら迎えに来てやるんですよ」


不器用な２つの恋がそれぞれの形を成して一区切りついていく。
14歳達と23歳達の淡い思い出の話。

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