君がかけた最後の呪い【沖田総悟】

夕日が記憶を運ぶ時 ページ12

最後の1通と、自分の返信を全て読んでも記憶を取り戻せなかった沖田は布団の中で考えを巡らせていた。


「昨日2人で見た夕焼け……か」

手紙の一文が急に気になって、枕元の常夜灯を頼りにもう一度先程の便箋を見る。

そういえば、昔よくサボっていた丘は夕焼けが綺麗だった。どうして最近は行ってたのかったのか。

明日久方ぶりに行ってみようと決めて沖田はモヤモヤしたまま眠りについた。



__翌日


「懐かしい」

まだ日は高い。やはりお気に入りの場所だった事は覚えているのに、どうして来なくなったかは思い出せない。

相変わらず風の気持ちいい丘の上。忙しなく人が動く江戸の様子がよく見える。


「久しぶりに夕焼けみてから帰るか」


芝の上に横になってどのくらい経ったろうか。
日が傾き始め西の空が燃える逢魔時。
燃える様な赤を目にした時、それは起こった。




『ね〜わざわざここで言わせなくても…一昨日走って逃げたのは謝ったじゃん』

『昨日は結局チャンドンゴンに免じてやったろーが。今日は言うまで許さねェぜ』

『うぅ……わかったよ……ふぅ……沖田総悟！貴方が好きです！大っ好きです』

『……』

『な、なんか言ってよ！恥ずかしいじゃん』

『A』

『は、はい』

『今からキスする』

『へ！？そ、そんなわざわざ言わなくても』

『今日は逃げんなよ』

『え、ッんむ……』



思い出した。
目を瞑って真っ赤になるAの顔も、その後ろに広がる赤い夕日も。
沖田だけが見ていた。沖田だけが知っていた。

『総悟！』『そーぉチャンっ』『そうご……』『そーごーー！！！』『総悟？？』

15年間で何度も何度も名前を呼ばれた。どんな顔も覚えてる。いや、思い出した。



「……A……」


そして、思い出した。
何度も呼んだその名前の主は、愛おしくてたまらなかった大事な彼女は、この世には居ないことを。
1年も前に居なくなってしまったことを。



記憶が流れ込むスピードに頭が痛むがそれよりも吐きそうなくらい心臓が痛い。


もう居ない。思い出しても、どこにも。

もう呼ばれない、微笑んでもくれない、もう2度と会えない。


柔らかい手の感触、キスする度に赤らむ顔、嬉しい時は大きく悲しい時はすぐにうるむ瞳。恋しくても2度と見れない。


「クソ、くそっ、なんで……Aッ」


無くしてた楽しかった思い出も沢山あるのに、涙が止まらなかった。Aの好きな所が山ほど。


大事なそれを思い出せば出していくほど、辛くなった。



日が沈み、星々が見守る中沖田は泣いた。
返事のないその名前を呼びながら。

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