第72訓 酔ってやらかした事を後から聞くと死にたくなる ページ26
「若瀬、また月見酒?」
「Aさん、抜けてきていいんですか?」
「高木が潰れる手前だから絡れないように逃げてきた」
椿の蕾が雪を乗せている静かな中庭、宴会場からは声が漏れてる。
「あのさ……」
「その言葉は俺にはいらないです」
4年。若瀬とAが出会ってから共に過ごした期間。
武州組よりもかなり短いが、信頼してお互い背中を預けあったその時間はAの次の言葉を推測するには十分だった。
「じゃあ、ありがとう」
「それも俺のセリフなんで変えてください」
「ったく、はい乾杯」
「はは、Aさんらしいですね」
少し屋敷にいた時の話をする。
腹心である若瀬には割となんでも相談しているAだが、今回のことは話すかかなり迷ったようだ。
話の間若瀬はキュッと口を横に結んで、月を見上げていた。
「戻りましょ。まだ隊長に殺されたく無いですから」
「今気が立ってるからねアイツ」
夜も更けてパラパラと床に付く人が増え、残る人も半分ほどになった頃。
「Aちゃん」
「秋山さんどったの?」
「総悟くん潰れちゃった」
秋山は武州から一緒で、2人からすると従兄弟のお兄ちゃんのような感覚だ。
仕事では隊長、副隊長と呼んでいるがそれ以外ではいまだに子供のように扱われている。
「俺は終を部屋にぶち込んでくるから、総悟くんお願いできる?」
「わかった。私も寝るね。みんなおやすみ〜」
酒瓶を持ったまま船を漕いでる沖田の肩を担ぐ。
「腰痛いのに重たいなぁ。珍しいね総悟が潰れるなんて」
沖田の部屋は荷解きがされてなければ布団も出ていなかった。
「寒いからちゃんと布団かけて」
布団を出してかけてやると、酒で熱っているのか足で払いのける。
「ま、寒くなったら引っ張るっしょ。っおわ!?」
そのまま自分の部屋に帰ろうとしたAの手はガッと引っ張られいつのまにか組み敷かれていた。
「起きてるの?」
馬乗りになった沖田の目はいまだにトロンと虚ろで、明日になったら覚えていないだろう。
「いつ帰ってきたんでィ」
「はぁ?この酔っ払いが」
「お前が居なくなったら…俺ァ」
沖田の夢の中はまだ佐々木邸にいるらしい。
「帰ってきて…よかった」
「んぅ」
貪る様に荒々しいキスの中、ボロボロと大粒の涙が降ってくる。ミツバを失って以来久方ぶりに見る涙。
(そうだ、総悟も泣くんだった。この人はこんなに綺麗に泣くんだ。)
Aが立つ時も、再会した時も見せなかったそれにやはり"帰ってきたんだから結果オーライ"なんて言えそうにもなかった。
第73訓 二日酔いはこの世の終わりの気分→←第71訓 怒られる前身構えてる時って吐きそうになるよね
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作者名:愛総 | 作者ホームページ:https://twitter.com/iso_0708/status/1468333379636834307?s=21
作成日時:2021年8月27日 20時