真選組血風帳 壱【沖田総悟】

第44訓 お金のご利用は計画的に ページ45

「本格的に考えないとな」

近藤と土方は小さな文机を挟んで向かいあい頭を抱えていた。年の暮れ、佐々木家別邸に転がり込んでからは早くも3ヶ月が経っていた。このまま居座れば管理人の家政婦に迷惑をかける。

いくら何年も使われていないとは言え今日明日急に人が来ないとも言い切れないのだ。

「それにあの問題もそう長くは……」

近藤の言葉に大きな問題を思い出して、土方はイラつきに任せて灰皿にタバコを押し付ける。悩みの種が多すぎる。資金繰りに、協力者集め、大所帯の宿など手を考えて入るが残念ながら進展はない。

「あの事についてはもう結論は出てる」

「わかってる。でもAちゃんはそれで納得する子じゃないのはトシが1番わかってるだろ」

「とにかくダメなものはダメだと伝えるしかない。あいつも近藤さんの言う事なら少しは聞くだろ。その話は終ぇだ。それより支援者は本島の上の方から当たってみよう」

土方は地図上の陸奥や羽前の国辺りを指さす。桂が別れ際に渡した取り込めそうな有力者候補のリストを当たる算段だ。

「国内から行ってダメなら宇宙に行くか。俺たちは所詮芋侍だ。泥臭く行こう」

「だが、上から回ろうにも全員で移動するにゃ金がかかる。かと言ってここに奴らだけ留め置くわけにゃ行かねぇ」

「とりあえずその問題は今日中に決めちまおう」

結果的に最善策とは言えない希望的観測が続き2人は頭を悩ませるしかなかった。

「だから、目を背けてもし方がないんだよ。兄ちゃん」

ベランダ窓ががらりと空いて悩みの根源が顔を覗かせた。

「A……いつから聞いてやがった」

「あの問題も長く持たないってところから」

「最初からじゃねぇかよ」

隣の部屋のベランダから忍び込んだらしい。窓枠を跨いで軽い身のこなしで部屋に入る。

「私がやるって言ってんの」

窓の前で仁王立ちする姿は近藤と土方からは逆光でシルエットしか見えない。
しかし、兄を論破してやったりと嫌味ったらしく満面の笑みだろうとなんとなく予想がついた。

「ダメなもんはダメだ」

「駄々こねても仕方ないんだよバカ兄貴」

「俺も反対だぞAちゃん」

「2人が止めてももう遅いよん。とっつぁんに返事しちゃったもん。真選組にとって何が大事なのか2人だってわかってるでしょ」

こういう時ばかりはこの娘の器用さが嫌になる。と近藤は言い返せない歯痒さと解決できなかった自分の不甲斐なさから拳を握りしめた。

「俺たちの大事には君がいる事をいつも換算してないんだよ。Aちゃんは」

「ううん。違うよ。私の大事が私自身を上回っただけ」

第45訓 家を出る時はあんまり出たく無いけどいざ出ると帰りたく無い→←第43訓 知らぬが仏とはいえ全く知らなければ知りたくもならない

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