忘れてしまう君に幸せを【zm】 (ページ13)

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A視線

「最初に思い出せなくなったのは、翠と夜ご飯買いに行った日やから、1週間前くらいかな。」

sn「なにが思い出せんやったか覚えてる？」

「うどん食べたいなってなって…でも売ってる場所が分からんやってん。でもそれくらいやったら物忘れやし、誰でも起こるやん？せやから、そんなに気にしてなかってん。｣

ペ神は真剣に話を聞いてくれている。
肯定もせず、否定もしない。

普通カウンセリングは
共感することで話を聞き出すものだが、
長年の付き合いでペ神それが苦手だと分かっている。

だからこそ、あえて何も言わないスタイルが
とても心地よかった。

sn「そっか。じゃあ次に思い出せんくなったのは？」

「それが…」

私が言葉を濁すと
フォローするように翠が説明してくれた。

zm「A、昨日の飲み会覚えてへんねん。」

翠がそう説明するとペ神も唖然としていた。
それほどまでにひどいのだと悟ってしまうくらいに。

zm「Aの中では昨日職場から戻って家で過ごしてたみたいや。俺が酔っ払ってたんは覚えてるみたいやけど、あくまで俺一人が飲みに行ってる事になってるみたいや。」

sn「それはいつ聞いたの？」

zm「今朝や。」

それから翠は今日の朝の話を
事細やかに説明してくれた。

ペ神もそれを真剣にメモする。

2人が深刻な顔をしているのを見て
やはり不安になってしまった。

私の身体になにが起こっているのか。
これからどうなってしまうのか。

こんなにも覚えてないのだから
これから先みんなの事も忘れてしまうのか。
ペ神のことも、職場の人のことも、我々だのみんなのことも、

翠の事も。自分の事も。

考え出したらキリがないほど
どんどん不安に駆られる。

『考えるな』と心では分かっていても
脳は言うことを聞かず次々と悪い考えが出てしまう。

sn「Aちゃん」

名前を呼ばれふっと我に返る。
我に返って冷や汗を大量にかいている事に気づいた。

sn「今の問診だけやと詳しくは分からへん。
せやから今から精密検査をしてもらうんやけど大丈夫？」

真剣な顔で言う。

「…うん。大丈夫」

sn「大丈夫。どんな結果になっても、俺が絶対治したる。せやから、そんなに深刻に考えんといて？」

そう言うとペ神はさっきとは打って変わって
ふわっと笑った。
それに安心した私はふふっと笑って精密検査へと向かった。