第九話 ページ11
監視の者がこちらに目配せをしてくる。入れということだろう。隣でぱたぱたと忙しなく動き回る女の長い髪を掴んで引き寄せる。
痛い、と言った声が聞こえたか構うわけもない。
「首領、芥川です。例の女を連れてきました」
「おや、とんでもなく早くないかい?入り給え」
「失礼します」
弾丸や爆薬はもちろん、大抵の異能による攻撃すらも弾ける特殊加工の扉が重苦しい音を上げ、室内のどうやらチョコレイトらしい。
でろりと胸に絡むような甘い空気を外へ放った。
鼻から喉へを走る不快感に体は反射で眉間に皺を作らせる。捉えた女も突然の酷い甘い香りに慣れないらしく抵抗の力をなくしている。
「あらリンタロウ、お客様が来るなんて聞いていないわよ!」
「私だって今来るとは思っていなかったのだよエリスちゃん、ああこんなに可愛いお顔をチョコレイト塗れにして。シャワーでも浴びてきなさい」
絶対イヤよ、ここまでやっちゃったんだから!わざとらしく頬を膨らませて首領の元から踵を返すと素早く僕らの側に来た彼女は、僕の抱える女の顔を覗き込んだり、周囲を数度回って蒼い瞳をぱちぱちと瞬く。
「変わった格好の子ね、元気がないみたいだけれどなにか酷いことでもしたの?」
「この部屋の匂いにやられたようです、大人しくなって助かりました」
「やだ!女の子なのに甘いのが苦手なのかしら?有り得ないわ、甘いは正義よアナタ!」
「甘いものそこそこ好きだけれど誰だって突然来たら困るでしょ!」
「......それもそうね?」
「そうです、んもう!あと芥川サン?離して、もう逃げられないですし乙女としてこの持たれ方はNGです」
両者多弁気味のためか、女のそれも見抜いたらしい首領は話を進めるべく口を開いた。
「失礼お嬢さん、突然連れて来られて戸惑っているだろうってところに悪いんだが」
「構いませんよ?ほぼ自主的に来ましたし!はたしてそんな私への質問疑問、何でしょう」
緊張感のない一周まわって策略のようにも見える話口調と身振り手振りが静かで広い部屋の中にやけに響き目立つ。
「君、最近このビルの周辺に来たかい?」
「来ました!とても高いビルだったので印象的で。入れるだなんて夢にも思ってなかったです」
「では次に、うちの従業員に異能力を使ったのも君かね?」
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作者名:寒空39 | 作成日時:2017年2月15日 0時