記憶172 ページ32
「あ」
あ。
私も目の前の利吉さんも同じ形に口を開けた。
そりゃこんな顔にもなる。
細い道を抜けてすぐ左の店がたまたま本屋で、そこにちょうどはぐれていた利吉さんがいたのだから。
そしてやはり彼は目的地で待ってくれていた。
あてもなく探し回らずにここに留まってくれていたことがすぐ会えた要因だろう。
【ご迷惑お掛けしました】
「いや、こっちこそ気が回らなくて……すまないことをしたね。何もなかった?」
問いかけに私は頷く。
利吉さんは何も起こらなかったかの意味で聞いているのだろう。
私の場合は二つの意味で何も無かった。
一つは利吉さんのいうもの、もう一つは求めているものがなかったというもの。
「なら良かった。さあ、中に入ろうか」
利吉さんの後に続いて本屋に入る。
一歩足を踏み入れると漂う墨と古紙の匂いが鼻腔をくすぐった。
現代の本屋のようにずらりと圧迫するように本がならべられている訳ではない。
思っていたよりも少ない本の数を残念に思いながらこれはこれで探すのが楽そうだと早速物色を始めた。
時々、普通に読んでみたいと思わせるタイトルの本を見つけるが目当てと違うので今回はスルーした。
――望み薄だと分かってはいたが、現実を見せられるとさすがに落ち込む。
私とは別で本を見ていた利吉さんに駄目でしたと伝えると、もうひとつの方にも行ってみようかと言ってくれたので、私たちはその店を出た。
またこの人混みを通らなければならないのかと思うと気が重い。
今度ははぐれないようにしなければ。
「あー……、オホン」
わざとらしく咳をしてこちらの様子を伺う利吉さん。
「またはぐれても困るし、その……」
最後までは言わず、手を差し出される。
【お気遣いありがとうございます】
見開きの左上に小さく書いてから私は彼の手を取り、二人で雑踏に溶け込んだ。
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小学7年生(プロフ) - ビビさん» コメントありがとうございます! ぼんやりとしか決まってないですが、アンケの結果を考慮するとこんなるかなぁというのはあります! ありがとうございます、最後まで頑張ります(^^) (2020年3月4日 17時) (レス) id: f875b378db (このIDを非表示/違反報告)
ビビ - 初めてコメントさせていただきます。続きが気になって仕方ないです。終わり方決まってるんですね、どんな風になるのか楽しみにしてます。これからも応援してます。 (2020年3月4日 12時) (レス) id: 1ea5bff0da (このIDを非表示/違反報告)
小学7年生(プロフ) - ゆきさん» めちゃくちゃ嬉しいです……(;ω;)一応終わらせ方のだいたいの方向性は決まってるので最後まで見て頂けると幸いです(●´▽`●) (2020年3月1日 12時) (レス) id: f875b378db (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 初めまして、こんにちわ!このお話とても面白くて凄く好きです!これからどうなるのかとても楽しみです♪無理せず頑張ってください!応援してます(*´ω`*) (2020年3月1日 10時) (レス) id: d382303660 (このIDを非表示/違反報告)
小学7年生(プロフ) - ウーロンティーさん» 光栄です! ありがとうございます、頑張ります〜!! (2020年2月19日 0時) (レス) id: f875b378db (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小学7年生 | 作成日時:2020年1月24日 18時