空っぽを埋めるモノ4【RKRN】

記憶142 ページ2

忍術学園に着き、尾浜さんが校門を三回ノックする。
蝶番がきしみ、古めかしい音を立てて小さい扉が開く。
そこから覗いたのは小松田さんで、おかえりなさいと笑顔で迎え入れてくれた。




敷地内に入ってからこれからどうするかをまとめる。




｢僕達は木下先生に報告に行かなくちゃ｣


｢Aさんはどうしますか？ 誰かついてかないと事情の説明も出来ないですよね｣




私がとりあえず会うべきなのは山本さんだろう。
説明するのは大変だろうが、できないことはない。
部屋に戻ればノートもシャーペンもあるため、文字が書ける。
そして何よりこの着物を早く脱ぎたい。
どちらにせよ私は一度自室に行くことになるので、皆には大丈夫と伝えて別れた。






――廊下を歩いていてふと思い出す。



(山本さんとの約束、守れなかったな)



怪我をしないという点だけ見れば約束を破ったことにはならないだろうが、声が出なくなったのを無事とは言わないだろう。




内容が内容なので、誤魔化すことも難しい。
長い話になってしまうが、最初から話すしかなさそうだ。




着替えを終えたらノートに事の顛末を書こう。
そうすれば説明の時間をかなり省くことができるはずだ。




他に書くべきことは何があるだろう。


一番最初に思いついたのは挨拶。
おはよう、こんにちは、こんばんは、ありがとう、ごめんなさい、お願いします等。



そして肯定、否定の言葉。
これは簡単にはいといいえだけ。





他に日常会話でよく使う言葉はあるかと考えるが特に思い当たらない。
ちょうど部屋に着いたため、私はそこで考えることをやめた。



＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿



(軽率だった。かるはずみだった)



五年ろ組の担任に試験の報告に行く途中、鉢屋三郎は悶々と考え込んでいた。
あの時もっと慎重にならなくてはいけなかった、最悪を考えて行動するべきだったと。



罪悪感に似た、しかしそれとは違うものが彼の心を埋めていた。
彼の傷を治したことで少女は声を失ってしまったのだ。
彼自身に非がなくても、彼のためにとした事でこの結果になったのだから、気に病んでしまうのが人の性というものだ。


それでも、元に戻す方法など知らない。
あるのかすら分からない。




(どうすればいいんだよ)





思い悩むくらいしか今の彼にできることはなく、齢一四の少年を苦しめるにはその無力感だけで有り余ってしまう。

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