【HQ!!】私は不運な人魚姫なのですか？【西谷夕】

溺れかけ。 ページ30

静寂を破って急に割り込んできた西谷くんの登場に、私の思考は完全停止した。


何か怒鳴られながら、言われるがままにフェンスを越えて引き寄せられる。


わかっているのは握られている右手首が痛いこと。


「手、痛いよ西谷くん。」


返事は返ってこなかった。


やっぱり怒ってるんだ。謝らなかったこと。


ちゃんと謝らなくちゃ。


「ご、ごめんなさい。怒ってるんでしょ。この前の帰り道、置いて帰ってそれから口をきこうとしなかったこと。わかってるから。ごめんなさい。」


うつむいて呟く。


「ああ。お前は大バカだよ。」


『何考えてんだ馬鹿!!』


それでも彼の手は緩まなかった。


相当怒ってる。本音も怒りの一色だ。


「ごめんなさい。そうよね。私が全部悪かった。だから許して…」


「誰が許すかよ!!」


『誰が許すかよ!!』


怒号が私の謝罪の台詞にかぶる。


本音をぶつけられていることが一瞬で分かった。


西谷くんの怒りで染まった眼は私の視線を真っ直ぐ捕らえていた。


あまりの迫力に、私は何も言えなかった。


「何勝手に死のうとしてんだよ！死ぬ勇気ある自分かっこいいとか思ってんじゃねぇよ！ふざけんな!!」


『ふざけるなふざけるなふざけるな!!』


彼の怒りは収まることを知らない。


私はというと、なぜ彼が怒っているのかが全く理解できない状況にいた。


何で？


赤の他人が死のうが何だろうが、西谷くんには関係ないじゃない。


私が死んで困ることと言えば、私の死体の後片付けくらいでしょう？


西谷くんにそんなことで怒られる筋合いはないわ。


意味の分からない彼の怒りに対する恐怖と憤怒で涙が出てきた。


「なんで…、あなたに怒られなきゃいけないの…？」


絞り出した台詞は涙と共にこぼれ落ちた。


嗚咽を漏らしながらその場に倒れる。


だんだん何から生まれた涙なのかが分からなくなってきた。


「私は…、私はただ…、」


愛されていたかっただけなのよ。


彼の耳に届いたかなんて知らない。


死ぬことも許されない私。


やっとのことで絞り出した勇気さえも儚く散る私。


あーあ、私ってなんて可哀想な奴なんだろうと、まるで他人事のように思った。


神様は予想以上に意地悪ね。


全てを呪いたくなるわ。

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