叶わない恋 《ベニマル》

第７話　恥ずか死ぬ ページ9

「いや〜。それにしても、さっきは熱い抱擁を交わしてたなぁ」
「リムル様。もうやめて下さい」

　自分でも、大衆の面前で、あんな大胆な行動を起こすとは思わなかった。嗚呼。恥ずかしさのあまり死にそうだ。

　結局、会議はあのまま続行され、空鬼は俺とソウエイの後ろに待機して、最後まで立席する形で参加した。この後、名を頂くため、リムル様と合流するらしい。
　俺のはるか前方を歩く彼女は、ホブゴブリナを含む複数の女子に囲まれている。片腕をシュナ。もう一方をシオンに掴まれ、歩きにくそうだが、その表情からまんざらでもないようだ。

「シオン、彼女の腕を離しなさい。長旅で疲れているのだから、私が疲労回復の薬草を煎じますよ」
「いいえ、シュナ様。疲れているからこそ、私の手料理を食べさせて、元気を取り戻してもらわねば困ります」
「姫様。シオン。お二人のお気遣い、痛み入ります」

　こうして、俺は空鬼と再会はできたが、屈強な男達に囲まれて、根掘り葉掘り聞かれる事になった。


　翌朝。俺は、ある人と鉢合わせし硬直する。

「おはようございます。若様」
「え？ あ。おぅ」

　鬼人に進化した空鬼は、以前より凛とした姿になって、眼前に現れた。
　服装は動きやすい格好で、下に薄着を着用している。そして、軽くお辞儀をされた際に、御空色の髪がさらりと流れて、旋毛(つむじ)が目に留まった。

「昨夜、リムル様からAの名を賜り、皆同様、鬼人となりました」
「そうか。よろしくな。A」
「はい。では、失礼します」
「ああ」

　一礼して踵を返し、背を向けて去っていく姿を眺めていると、思念伝達で、リムル様から『朝食の準備ができた』と報せが入り、急いで身支度を整えた。町の中心に位置する食堂に入れば、シオンとリムル様の横で、昨日ぶりに見た禍々しい劇物料理を前に、平然としている。

「A。何をやってる？」
「見ての通り、毒見です」
「やめろ。死ぬぞ！」

　だが、木製の匙を手にしている本人は、きょとんとして、こう告げた。

「若様。これまで何百年も、姫様の毒見をしてきました。護衛たる者、主のお命を護るのが仕事ですので、止めないで下さい」

　そして、臆する事なく、一口すくった料理を簡単に口にする。皆が見守る中、昨日のゴブタのように悶絶する事なく、黙して咀嚼し、飲みこんだ。湯呑みに入った茶をすすり、一言。

「シオン。もう一度作ってみようか」

　口調は優しいが、目が笑っていなかった。

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