第5話 報せ ページ7
「若。今宵は、ここで野宿にいたしましょう」
空鬼が身を呈して足止めしたが、それでも万が一のために、足が棒になるのも無視し、ひたすら前進し続ける。
爺の提案を受け入れ、皆が息が切れている事に遅まきながら気づき、気休め程度だが、体を横たえ仮眠する。
「…っ…うぅ…」
「ふっ…ぐぅ…」
妹のむせび泣く声と紫鬼の嗚咽が、宵闇に途切れ途切れに小さく響いた。
夜が明け、あてもなく。だが、確実に前へ歩みを続け、時には食糧を分け、近くの川で身を清めていく。
「正体を現せ。邪悪な魔人め」
そうして出会った仮面を被った人間は、里を襲った魔人ではなく、実は下等魔物のスライムで、魔物を束ね、魔物だけが住む町を作っていた。
その夜。
事情を聞くためとは言え、ホブゴブリンとドワーフの宴に同席しただけでなく、まともな飲食を与えられる。しまいには、リムルと呼ばれるスライムに、『部下にならないか』と提案を受けた。
「俺に、もっと力があれば……!」
宴の喧騒から離れ、客間へ向かう。
個室をあてがわれたおかげで、一人になった刹那、それまで張っていた緊張の糸が切れたのか、両の目から熱い液体が頬に伝い、すっと流れ落ちていく。呼吸もままならず、自分が慟哭しているのだと気づくまで、ひどく時間がかかった。
「お兄様。その顔でリムル様にお会いになられるのですか?」
「は?」
翌朝。
枯れかけた喉を水で強引に癒していた時、妹に手を引かれ、強制連行された先に水瓶があった。言われるがまま中を覗くと、眼は充血し、目尻は赤く腫れ、明らかに泣き疲れた顔が水面に映っている。
「……ああ。このままじゃ、族長として合わせる顔がないな」
水瓶の淵を掴み、情けない表情を浮かべる己に、乾いた笑いがこみ上げた。
妹の助力で、どうにか腫れが引き、リムル殿に対面。部下になった証として、それぞれ名を頂戴し、
「死体は、全員何者かによって埋葬されていました」
「生存者がいたのか?」
「はい。それを今、ご報告いたします」
その時、ソウエイの背後にある影が、ぐらりと大きく歪んだ。
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竜胆(プロフ) - 200回の投票を頂き、ありがとうございます。 (2023年3月8日 19時) (レス) id: 2d2249a2d0 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - お気に入りに入れて下さる方が、再び400人に到達! ありがとうございます。更新できるように頑張ります。 (2020年2月2日 21時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - 瑠亜@影月さん» 瑠亜@影月さん、コメントと応援ありがとうございます。心変わりしてしまうほどとは(笑)もう話が一杯になったので、ただいま続編に向けて考案中です。更新できるよう頑張ります! (2019年5月13日 1時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
瑠亜@影月 - 私はソウエイが推しキャラだったんですが、若様に心変わりしてしまいそうです(笑)これも竜胆さんの文才の力ですね!これからも更新頑張ってください! (2019年5月12日 21時) (レス) id: 9b9cc1c6b7 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - 紫癸さん» 紫癸さん、コメントと応援ありがとうございます。お褒めの言葉も重ねて感謝します。ただいまコミック版最新話の展開を待機している状態なので、もうしばらくお待ち下さい。必ず更新します。 (2019年4月11日 22時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:竜胆 | 作成日時:2018年12月1日 1時