第４話 あなたが笑う時 ページ6
「そういえば、『空鬼』を笑わせる事はできたか？」
魔人を追い返して、しばらく経った日の朝。
すっかり忘れていた事を、親父が俺に言ってきた。
「まだだ。毎日多忙で、それどころじゃねぇよ」
「そうか。できたら報せに来い」
「できたらな」
これが親父との最後の会話になるとも知らずに、俺は普段通り、日課の素振りと剣術の稽古に出かけた。
どれくらい後だったのか、正直憶えていない。
「姫様、お逃げ下さい！」
目に焼きつくほどの紅い炎に包まれる里。
遠くから聞こえる護衛の声。
邸宅の梁が崩れ落ち、行く手を阻む。
「げほっ」
立ちこめる煙と
「親父っ！」
一瞬、言葉を失った。
血の海に沈む
凶器を持つ
「若様！」
突然、右手首を強く引き寄せられ、姿勢を崩して倒れた。直後に、ばきりと固いものが割れる音が耳に届く。
「お怪我はありませんか？」
俺に背を向けて問うのは、妹の護衛をしていたはずの空鬼だった。
「ない」
立ち上がり、鎧越しに胸部を、ごつんと拳で叩かれる。
「背は護ります。里の外まで走って！」
遅れて、豚の武器が、足元にある廊下の床を破壊したのだと知った。
背中合わせのまま、迫り来る豚共を刀で斬っていき、返り血で鎧が鉄臭くなっても、里の外を二人で目指す。
「もう少しだ。お前も踏ん張れ」
「言われずとも」
このまま逃げられると思っていた。
里の外にいる妹達と合流できた直後までは。
「っ!? おい、立ち止まるな！ こっちに――」
里を背に空鬼が走るのをやめ、俺達の目を見て静かに微笑んでいた。
「豚共の墓場は、ここです。一歩も外に出すわけにはいきません」
喋っている間に、複数のオークが彼女の背後に迫っていた。幅の広い剣を後ろに引き、
「やめ――」
容赦なく、護衛の身体を貫く。
だが、オークは、それをすぐに引き抜かなかった。
「あたしが、笑う時は…若様と、姫様の、お命を…お護りできた、瞬間です」
激痛に耐えながら刀を地面に落とした状態で、空鬼はなおも微笑み、言葉を紡ぐ。
「…大丈夫、ですよ。…すぐ、追いつきますから」
妹が嗚咽と涙をこらえて俺の手を引いたのを機に、６人の大鬼族は苦渋の選択をし、里を後にした。
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竜胆(プロフ) - 200回の投票を頂き、ありがとうございます。 (2023年3月8日 19時) (
レス) id: 2d2249a2d0 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - お気に入りに入れて下さる方が、再び400人に到達！ ありがとうございます。更新できるように頑張ります。 (2020年2月2日 21時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - 瑠亜@影月さん» 瑠亜@影月さん、コメントと応援ありがとうございます。心変わりしてしまうほどとは(笑)もう話が一杯になったので、ただいま続編に向けて考案中です。更新できるよう頑張ります！ (2019年5月13日 1時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
瑠亜@影月 - 私はソウエイが推しキャラだったんですが、若様に心変わりしてしまいそうです（笑）これも竜胆さんの文才の力ですね！これからも更新頑張ってください！ (2019年5月12日 21時) (レス) id: 9b9cc1c6b7 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - 紫癸さん» 紫癸さん、コメントと応援ありがとうございます。お褒めの言葉も重ねて感謝します。ただいまコミック版最新話の展開を待機している状態なので、もうしばらくお待ち下さい。必ず更新します。 (2019年4月11日 22時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：竜胆 | 作成日時：2018年12月1日 1時
