叶わない恋 《ベニマル》

第45話　未練 ページ47

「今回のお題は、『叶えたい夢』です」
「それは面白そうですね」

　今夜は、リリナの家でまったり女子会を開催している。だが、その手にはお猪口ではなく、半年ぶりの一口大の甘味があり、夜に食べてしまう背徳感や罪悪感が一緒になって、どう表現すれば良いか判らないが、至福とでも言っておこう。

「私は、リムル様と添い遂げたいです！」
「シオン。去年も同じ事言ってなかった？ 一昨年(おととし)の夏は、流れ星に叫んでたよね。夜中に大声で」
「叶うまで言い続けますから！」
「あら。シオンも、私と同じなのですね」
「姫だからと言って、みすみす譲る気は毛頭ありません」

　彼女の言葉を聞いて、頭に浮かんだ言葉は『羨(うらや)ましい』だった。
　そう思った原因は、悩まなくてもよく判る。『添い遂げたい』と想うほど、逢瀬どころか異性を愛した経験が全く無く、恋愛のイロハも考えつかないからだ。

　自己分析をして二個目の甘味に手を伸ばし、それをゆっくり味わいながら、他の女性達の夢を聞いていく。
　シオンと姫様のリムル様争奪戦が眼前で勃発したが、いつもの風景なだけに、皆はあまり気を遣ってはいないようだ。

「リリナは？」
「生産物管理大臣としては、もっと国交を広げて、たくさんの食物を知って、この国を豊かにしたいです！」
「さすがは、リリナさん。頼りになりますね」
「いえ。護衛のお二人と、諜報部隊のあなた達には劣りますよ」
「リリナがいるから、リムル様の望んだ食物が取引されているのです。もっと胸を張っていいですよね、A様？」
「ソーカの言う通りだ。で、貴女の夢は？」
「わ、私は、いつかソウエイ様に想いを告げたいです」
「へェ、頑張れ。応援してるよ」

　リムル様から名付けられる際に、一族を前に堂々と『ソウエイ様に憧れて着いてきた』と宣言していた事を思い出し、ようやくその意味に合点がいった。

「じゃあ、A様の夢はなんですか？」
「夢は無いけど、未練はある」

　先祖が人間だった事は一部の魔物(ひと)だけが知るだけに過ぎないが、口が堅く信頼できる者しか言っていない。

「あなた達だけに。そして、一度しか言わない。秘密にして欲しいから、よく聞いて」

　この言葉で争奪戦は引き分けに終わり、とりあえず聴く姿勢を取られた。

「職業柄恋をした事も、花嫁衣裳を着る機会もないから、恋ってヤツをして、人並みの幸せを勝ち取りたいんだよ」

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