第28話 焦り ページ30
「…おい。もう夕飯時だぞ」
夕闇が迫る頃、木陰からソウエイが姿を現した。
「昼間の事なら、ノワールに聞かされた。今は、飯を食うのが先だろう」
「…ああ」
そこから、いつも通り食堂で夕飯を口に運ぶが、何故か美味く感じなかった。
リアムとノワール。フォビオは、宿泊施設での食事となっているからここにいないが、魔都に滞在している事に変わりはない。
「ご馳走様」
「どういたしまして」
食器類を乗せた盆を返却した際に、片手鍋を振るって炒め物を調理しているAと視線が合ったが、頭で考えるより先に視線を
そのまま食堂を出て、家の裏庭で軽く素振りをした後、入浴の準備をしようと自室で衣類を選ぶ途中で、誰かが話しながら近づいてくる気配がした。即座に窓際に背を向け、床に座って耳を澄ませる。
「あたしは、自分が知らないうちに若様の気を害したんだと思う。そうでなくては、あのような態度は取られないはずだ。直接お会いして謝罪したい」
思い悩むAに対して、ソウエイは淡々と告げた。
「いや。あれは、ただ単に
「…そう?」
「嗚呼。餓鬼からの腐れ縁だ。アイツの事ならだいたい分かる。大丈夫だから、俺を信じろ」
従妹を落ち着かせるためか、普段より珍しく口数が多くなっている。
「わかったよ。ありがとう。兄貴」
Aの気配が遠ざかり、ソウエイは帰宅早々俺の部屋の前で立ち止まり、扉越しに愚痴を言う。
「盗み聞きするくらいなら、Aに会えばいいだろう」
言うだけ言って、さっさと自室に向かう幼馴染みに対して、何も反論できずに俺は風呂場へ直行した。
湯船に肩まで浸かりながら、独り物思いに
たしかに、俺とAの間には壁がある。
でも、なぜ
「…あ゛ー。……わっかんねぇ」
腕を広げて風呂場の縁に置き、目を閉じたまま気だるげに天井に顔を向けた時、ゴブタの軽い声がした。
「何か悩んでるんスか?」
どうやら原因を知っているらしく、本来隠すべき物も隠さずに、素っ裸でニヤリと笑う。
「…いや。なんでもない」
「悩んでないなら、そんな顔しないッスよね? まぁ、Aさん絡みでしょうけど。ぐずぐずしてると、フォビオって人に取られるッスよ!」
「ッ!?」
この時、『他のヤツに取られたくない』と強く思った。
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竜胆(プロフ) - 200回の投票を頂き、ありがとうございます。 (2023年3月8日 19時) (レス) id: 2d2249a2d0 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - お気に入りに入れて下さる方が、再び400人に到達! ありがとうございます。更新できるように頑張ります。 (2020年2月2日 21時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - 瑠亜@影月さん» 瑠亜@影月さん、コメントと応援ありがとうございます。心変わりしてしまうほどとは(笑)もう話が一杯になったので、ただいま続編に向けて考案中です。更新できるよう頑張ります! (2019年5月13日 1時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
瑠亜@影月 - 私はソウエイが推しキャラだったんですが、若様に心変わりしてしまいそうです(笑)これも竜胆さんの文才の力ですね!これからも更新頑張ってください! (2019年5月12日 21時) (レス) id: 9b9cc1c6b7 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - 紫癸さん» 紫癸さん、コメントと応援ありがとうございます。お褒めの言葉も重ねて感謝します。ただいまコミック版最新話の展開を待機している状態なので、もうしばらくお待ち下さい。必ず更新します。 (2019年4月11日 22時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:竜胆 | 作成日時:2018年12月1日 1時