第27話 一線 ページ29
「ありがとうございます、ベスターさん。僕、一生恩に着ます!」
「ノワール君の役に立てて何よりだ」
フルポーションのおかげで両脚が癒えて治り、ひとしきり家の周りを走り回り、自分の脚の具合を確認した後の一言だ。
しかし、精神年齢は高くても今の身体は子供で、すぐに眠りこけてしまった。少年の遊びに付き合っていた中年の男達は、その途端に腰や腿に手をあて、低い
「年甲斐もなくはしゃいじまったなァ」
「坊やの笑顔見ると、こっちまで嬉しくなるぜ」
クロベエが数回
「若様。さっき誰と話してたんだ?」
「Aだ。ノワールの身内を連れて来るらしい」
それから、少年を起こさないようにしばらく至近距離の思念伝達で会話していたが、徐々に足音が近づいてくるのが耳に入る。
「誰だ?」
窓を開けて視線を下にやると、家の影に隠れて身を潜めているフォビオがいた。肩で息をしていて呼吸が浅く、脇腹をぐっと押さえている。
「…た…、頼む。隠れさせてくれ」
「構わないが……」
次の瞬間、家の外壁からニュッと腕が生え出て、思わず短い悲鳴をあげてしまった。
「捕まえたぞ、フォビオ!」
「うわぁッ!?」
彼の後ろから覆い被さるように、Aが影移動で姿を現した。こちらも息が浅いが、声音から達成感が垣間見える。
「若様。連れて参りました」
だが、そんな彼女の誇らしげな口調に、素直に喜べない自分がいた。
「そうか。ご苦労だった」
事務的な返答をする今の俺は、いったいどんな顔をしているのか全く判らない。
昼寝から目を覚ましたノワールと、謝り倒して脚が治っている事に号泣するフォビオの光景を見ても、まるで他人事のように感じる。
「…少し風に当たってくる」
「はい。お気をつけて」
Aに見送られて居住区を抜け、街を見渡せる丘にある木の根元に腰を降ろして、数秒も経たないうちに、さっきの場面が脳裏にちらついた。
(フォビオ!)
今思えば、一度もAに自分の名を呼ばれていない。
「A…」
俺は、いつもお前の名前を呼んでいるのに。
どうして、アイツの名前を気安く呼ぶんだ?
……気安く、か。畜生。
そこで、重要な点を見落としていた事に気づく。
俺は『若様』で、Aは『護衛』という、あまりにも明白な壊せない身分と立場の一線だ。
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竜胆(プロフ) - 200回の投票を頂き、ありがとうございます。 (2023年3月8日 19時) (レス) id: 2d2249a2d0 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - お気に入りに入れて下さる方が、再び400人に到達! ありがとうございます。更新できるように頑張ります。 (2020年2月2日 21時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - 瑠亜@影月さん» 瑠亜@影月さん、コメントと応援ありがとうございます。心変わりしてしまうほどとは(笑)もう話が一杯になったので、ただいま続編に向けて考案中です。更新できるよう頑張ります! (2019年5月13日 1時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
瑠亜@影月 - 私はソウエイが推しキャラだったんですが、若様に心変わりしてしまいそうです(笑)これも竜胆さんの文才の力ですね!これからも更新頑張ってください! (2019年5月12日 21時) (レス) id: 9b9cc1c6b7 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - 紫癸さん» 紫癸さん、コメントと応援ありがとうございます。お褒めの言葉も重ねて感謝します。ただいまコミック版最新話の展開を待機している状態なので、もうしばらくお待ち下さい。必ず更新します。 (2019年4月11日 22時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:竜胆 | 作成日時:2018年12月1日 1時