第34話 羨ましくなんかない ページ36
「ベニマル。昼間の件だが、いきなり酒に誘うのは厳しいし、警戒心が高い。一度でも失敗すれば、フォビオの二の舞になる」
「……」
風呂上がりで乾いた髪を掻いて悩んでいる時に、爺が日常での行動を確認してきた。
「毎朝会話しながら稽古場に来られますが、その時は隣同士。つまり、若が傍にいても不快ではないという事の表れですじゃ」
盲点をつかれた時、がらりと玄関の扉が開く音がした。
今日は半年に一度酒盛りをする日で、要するに慰労のようなものだ。
『ただいま戻りました〜』
「お帰りなさいませ」
浴衣姿で息の合った三人を、爺が出迎える。
「久し振りに宴は
「いいですね!」
「賛成です。Aも飲みますよね?」
「少しだけなら参加いたします」
こうして、慰労を口実に家臣とどれだけ距離を縮められるか、毎回試している。
クロベエが酔っ払ってきた頃、
「お隣失礼します。若様」
「遠慮しないでいいぞ?」
そう応える俺だが、内心穏やかじゃない。
《お前、酔ってないだろ》
《うるさい。感謝しろ。ヘタレ》
至近距離の思念伝達で罵倒を受けた。
「兄貴。いいよ」
「ん…」
正座したAの太股に引き寄せられるように、ソウエイの頭が乗る。それを、
やがて、胸元を一定の拍子で叩いていくうちに、幼馴染の静かな寝息が聞こえてくる。この間に、女性陣が食器の片付けをし、爺はさりげなく退室していた。そして、クロベエがソウエイを運び、膝枕から解放する。
「…どうかされましたか?」
普段なら断っているが、今夜だけは一歩踏み出し、勇気を振り絞る。正直言って、心臓が張り裂けそうだ。
「お、俺もッ、膝枕してほしい」
「構いませんよ」
声が震え、裏返ってしまったが即答だった。俺は、胸中で拳を突き上げる。
Aは自分の太股を軽く叩き、俺を誘導した。恐る恐る布一枚隔てられたそこに頭部を乗せるも、彼女は呼吸している以外、微動だにしない。まるで、石像のようだ。
「A。眠れないから、寝かしつけてくれ」
「……。わかりました」
不自然な間はあったものの、トントンとゆっくりとした一定の拍子で、胸の下辺りを優しく叩かれ、あっさり陥落した。
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竜胆(プロフ) - 200回の投票を頂き、ありがとうございます。 (2023年3月8日 19時) (レス) id: 2d2249a2d0 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - お気に入りに入れて下さる方が、再び400人に到達! ありがとうございます。更新できるように頑張ります。 (2020年2月2日 21時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - 瑠亜@影月さん» 瑠亜@影月さん、コメントと応援ありがとうございます。心変わりしてしまうほどとは(笑)もう話が一杯になったので、ただいま続編に向けて考案中です。更新できるよう頑張ります! (2019年5月13日 1時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
瑠亜@影月 - 私はソウエイが推しキャラだったんですが、若様に心変わりしてしまいそうです(笑)これも竜胆さんの文才の力ですね!これからも更新頑張ってください! (2019年5月12日 21時) (レス) id: 9b9cc1c6b7 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - 紫癸さん» 紫癸さん、コメントと応援ありがとうございます。お褒めの言葉も重ねて感謝します。ただいまコミック版最新話の展開を待機している状態なので、もうしばらくお待ち下さい。必ず更新します。 (2019年4月11日 22時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:竜胆 | 作成日時:2018年12月1日 1時