検索窓
今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:39,284 hit

63話 ページ14

ありがとう、と月島さんが夫婦に伝えた


吹雪も止んだので出発する


杉元が奥さんに手を握られ何かを言われた

なんとなくわかった

娘を頼む、と言ってる感じだ


月島「おい杉元」

杉元「わかってるよ、行く先々で聞いて回るくらいは負担にならないだろ?本来の目的が最優先だが、何も恩返しせずにサヨナラはできねえよ」

『そうだな』

杉元「おかあさん、あのからっぽの額に俺の写真を入れておいたから、もしも燈台にこのアイヌの女の子が立ち寄ったら伝えてくれ。杉本佐一と黒澤Aは生きてるって」

そういうと我々は犬ぞりに乗って走り始めた


***
新問付近にある樺太アイヌの集落に滞在している

エノノカがメコオヤシな出たと騒いでいる

エノ「毛皮に赤と白のブチがある、犬みたいに大きな猫!」

月島「オオヤマネコだな」

鯉登「ふん…尾形百之助じゃないのか?」

杉元「なんで尾形なんだよ」

谷垣「……」

鯉登「山猫の子供は山猫…」

『鯉登少尉殿!!!!!』

鯉登「!……すまん」


『………怒鳴って…失礼しました』

杉元「…どういう意味だ」

月島「山猫は芸者を指す隠語だ、師団の一部の連中が言っていたくだらない軽口だ」

杉元「本当にくだらねえな」

鯉登「あの性格だ、嫌っている人間も少なくない。私も大嫌いだ」

僕は外に出た

軍にいる頃から、山猫の話は僕の周りでもしていた

第一師団だった僕の耳にも入るぐらい噂になってた



雪を払った岩の上に座る


無意識に小銃の操作をしていた



杉元「こんなとこにいた」

『杉元』

杉元「鯉登少尉、落ち込んでたよ」

『……元上官に怒鳴ってしまった』

杉元「…尾形さ」

『?』

杉元「見つけたら殺しちゃうかもしれない」

『……うん』

杉元「…」

『僕は心のどこかで、死んだ兄様と尾形さんを重ねていたのかもしれない』

杉元「…」

『尾形さん、僕といるとたまに兄様のように優しく微笑むことがあったんだ』

杉元「へえあの尾形が」

『ほら、前のボタンのかけ違いだって直してくれたろ?きっと僕のことを子分かなんか、そういう感じで思ってくれてるんだ』

杉元「………違うと思うけど」

『ん?なんか言った?』

杉元「いや別に」

『殺す前に一回だけ、僕に説得の機会をくれ。一回でいい』

杉元「…わかった」

『いいのか?』

杉元「俺はAを信じてる」

『ありがとう杉元』


礼を言うと

杉元が僕に優しく微笑んだ


兄様のように微笑む、尾形さんのように

64話→←62話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (39 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
152人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:八咫烏 | 作成日時:2022年4月21日 14時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。