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力の抜けたその口から、力の抜けたその体が落とされる。
必死の思いで抱き止めた彼女の体は、もう生きている者の温もりを持っていなかった。
悪い夢のような、でもそれは確かに現実の光景だった。
倒れた水龍の死骸になんて目もくれず、彼女の体を洞窟の床にそっと横たえる。
首が詰まって苦しそうなローブの紐を緩め、額にかかった紙をどかす。その顔色は青白く、そしてほのかに湿っていることから水龍の攻撃魔法が直撃したことは明白だった。
一撃で決められたのか、苦悶の表情なんてなくまるで眠っているような__本当にそんな風に、人は死ぬのだと思ってしまう。
......大丈夫。俺が助けてやるから。
震える手で彼女とお揃いのローブの裾を握り、再確認するのは今から自分が行おうとしているその行為の罪深さ。頭によぎる彼女の声。
しかし彼女を生き返らすためには、この魔法しかないのだと。
「許せ」
意を決し、その唇に自分のそれを重ね合わせる。
蘇生魔法。全属性の中で、闇属性と光属性にのみ与えられた、回復魔法の上位互換。
初めてその存在を知った時、なんてロマンチックな方法で用いる魔法なんだと呆れたことを覚えている。しかし死んでしまった者に生命力を分け与える時、その方法が1番効率がいいのであろうことは納得せざるを得なかった。
頬を伝う涙。そのまま息を吐く。
蘇るのは彼女の声。もし魔法が使えなくなったら、と問うた俺に、生きてけない、と即答した彼女の声。
ノーリスクでそれを行うことのできる光属性と違い、闇属性のそれには代償が課されていた。
『使い手と受け手の魔力の消失』
いつだったか読んだ古い魔術書に書かれていた擦れた文字が、目を閉じれば瞼の裏に浮かぶ。言ってしまえばそれは、今後一切の魔法が使えなくなることを表していた。
そして俺は知っていた。光属性最後の1人が、前の冬にあっさりと魔物にやられたことを。
唇を離す。
もしかしたら彼女の望みは、ここでこのまま安らかに眠ることかもしれない。魔法のない世界を生きることじゃなく、魔法使いのまま死ぬことかもしれない。
だけど俺は、そんなこと望んでない。
「......ごめんな」
血色の戻ったその肌に、自分の体内から魔力が消えたことに、蘇生魔法が成功したことに気づき心から安堵する。
ゆっくりと開かれた彼女の瞳に、もう魔法使いの証である色はない。
それでもいい。もし魔法が使えなくたって。
生きてくしか、ないんだから。
The answer Fin.
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ビー玉(プロフ) - 次作品もぜひ読みたいです!たのしみにしてます〜! (6月3日 19時) (レス) id: 7a07f59bfb (このIDを非表示/違反報告)
すおう(プロフ) - しゃけさーもんさん» コメントありがとうございます!私もギルティ1番気に入っているので、そう言っていただけて本当に嬉しいです‼︎のんびり更新ですが見守っていただけるとありがたいです......! (6月3日 17時) (レス) id: 4a16b8c5b0 (このIDを非表示/違反報告)
しゃけさーもん - 個人的に10億と有罪のお話で泣きました。エモい?というか心がぐわっとする感じ(語彙力)で大好きです!!次回作も作っていただけるんですか、、、!楽しみに待ってます!! (6月3日 14時) (レス) id: a2c9c247fb (このIDを非表示/違反報告)
すおう(プロフ) - ビー玉さん» コメントありがとうございます‼︎まだ手探りで書いている状態なので、そう言っていただけるとほんっっとうに参考になります!この短編は次話(6人目)で完結かなぁと考えているのですが、近いうちに次作品も作る予定なので、よければ是非......! (6月3日 7時) (レス) id: 4a16b8c5b0 (このIDを非表示/違反報告)
ビー玉(プロフ) - とてもお話好きです!けどお話の中の流れや誰が話しているのかが分かりにくいところもあるので(個人的に)読みやすくしてくれたら嬉しいな〜って思います!これからも読み続けたいです!応援してます! (6月3日 1時) (レス) @page21 id: 7a07f59bfb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:すおう | 作成日時:2023年3月3日 16時