36色目 落ちて、空五部子 ページ23
これは、今から年ほど前。
“空中魔法都市マグナ”がまだ空に浮かんでいたとき。
当時は力ある名家同士の分家も巻き込んだ紛争が頻繁に起きていて、財政も良くはなかった。
不安定な社会の中、家は瞳と髪の色で家族を見分けることも多かったという。
……そして、その見分けほうによって何人かの幼子が家を破門にあうという事例も起きていた。
淡い水色の髪に真っ赤な瞳。ちぐはぐな容姿の子も対象で、まだ5歳になったかなっていないかという幼子もその日、破門になった。
「うぅ……お腹が……」
水色の髪に真っ赤な瞳の幼女は、ずっと親や村の黒い感情に晒されて来たからか大人びていて、泣くよりまず、餓えをしのぐ為の塒を探していた。
肌着とスパッツと大人用のパーカーしか身に付けていない。寒さをしのぐ事も考えなくては。
ほとんど骨と皮、そして申し分程度の筋肉しかついていない足を引き摺るようにして進む。
行く宛も金も地位も名前も無いが、ただ、ただ前へ。
彼女は約10日前に破門された。
普通の5歳児なら3日あたりでだいたい栄養失調や低体温症で死ぬ。
だが果物の摘み方、火の興し方等の小さなサバイバル知識で彼女はここまで生き延びれた。
今まで来た道には水か食料が少しはあったし、最悪民家へ行けば良くしてくれた。
でも今進んでいる道にはかろうじて薪になれるかなれないか、というほど細い木に、乾いた土しかない。
水も、動物も、食べれそうな植物も、人っ子1人すらいない。
実に深刻な問題だ。
きゅるるぅ、とお腹が空腹を訴えるが、幼女にはそれを止める術はない。
疲労と空腹とその他諸々で彼女の体が、ついに根をあげた。
真っ暗に歪む、幼女の視界。
90度回転した世界で彼女は自分が“倒れた”ということを悟った。
体も口も動かない。意識も暗くなって消えようとする手間で、何かの影が彼女の前を横切る。人だ。
(誰だ? こんな何も無い場所に……)
そいつは上等な服に小麦色の肌の屈強な男で、幼女を見るとしゃがみ、目や髪色をしげしげと見る。
とうとう消えようとする幼女の意識の最後。
その男は口角を卑しく上げ、舌舐めずりをして気味の悪い笑い声を響かせていた。
「こいつ………“赤のカラフル”か? こりゃぁ良い。どんと儲けられる」
金目当てか、ゲスが。
黒く視界と瞼が閉じてゆく。
やがて、何も感じなくなった。
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