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陌壹 ページ8

「御免下さーい!」


扉の外から元気よく挨拶して暫くすると、慌ただしい足音が近付いている。


普段は感情を表に出さない人なのに、と思わず笑ってしまう。


がらりと目の前の扉が開かれ、中からすっと顔を出したのは 特徴的な赤い天狗の面を身に付けた男だ。


「お久し振りです、鱗滝先生。」


「暉峻、よく此処まで来た。」


力強く抱き締められる。その懐かしい匂いが心地好くて、強く抱き締め返した。








「暉峻、此処まで疲れただろう。直ぐにご飯にしよう。」


「先生、手伝いますよ。」


「いや、其処に座っていなさい。」


囲炉裏を指差され、渋々と座布団の上に座る。暫くすると、出汁の良い匂いが漂ってきた。


そわそわしながら、運ばれてくるのを待つ。やがて立ち上る湯気の中に、鍋にたっぷりと入ったおでんが見えた。


「さぁ、出来たぞ。」


鍋を囲炉裏にかけ、いただきます、と二人で合掌する。早速小皿に取り分けて、ふぅと息を吹き掛けてから口に運んだ。


出汁のよく染みた大根、黄身がとろける卵にごぼう天やイカやキクラゲ入りのさつま揚。身も心も温まって、自然と顔が綻ぶ。


「確かあの日もおでんでしたね。」


身も心も凍るような寒い夜、私は義勇に此処まで案内された。


「あぁ、義勇が連絡無しに突然お前を連れてきた時は驚いたな。結局お前は直ぐに試練を突破して、此処を巣立ってしまったが。」


「私にとって此処は第二の故郷です。過ごした時間は短くとも、ずっと私の心の中に在り続けています。」


「…そう言って貰えると嬉しいものだな。して、稽古はどうする。明日から始めるか?」


「はい、宜しくお願いします。今日は夜遅いので直ぐに寝ますね。」


「そうしてくれ。あぁ、明日からまた忙しくなるな。」


そう呟く鱗滝さんの声はどこか弾んでいて、私も嬉しくなり 笑顔で応える。


「…そういえば、後数日もすれば義勇が帰ってくる筈だ。お前がいることを知れば、きっと義勇も喜ぶだろう。」


「あぁ、それなら私が帰ってきている事秘密にしませんか? 絶対に驚いてくれると思うので。」


「それはいい。よし、そうする事にしよう。」







ゆっくりと風呂に浸かり、日頃酷使してしまっている鴉も一緒に洗ってやる。


湯を張った洗面器の中に浮かび 心地良さそうに目を閉じる鴉を見て和みながら、数日後に見れるだろう義勇の驚く姿を想像して顔を綻ばせた。

陌貳→←陌



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酸漿(プロフ) - きなこ餅さん» 有り難う御座います。これから続編を書いていくので、そちらの方も是非お楽しみください。 (2019年10月20日 21時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
きなこ餅 - たくさん伏線がはられていて、読む度にドキドキします! これからも更新頑張って下さい! (2019年10月19日 21時) (レス) id: 3d1d19266b (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 神桜佳音さん» 嬉しいコメントありがとうございます(^-^)励みになります。これからもどうか宜しくお願いします。 (2019年10月13日 19時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
神桜佳音(プロフ) - ようやく納得しました…!話が深い…。辛い。けど、すごい好きです!無理されないで更新されてください!続き待ってます! (2019年10月10日 19時) (レス) id: 78c574c661 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年9月21日 18時

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