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陌參拾 ページ37

午後の光が徐々に薄らぎ、夕暮れの気配が辺りに漂い始める。


「アイツを見たのか。」


動揺を微塵も感じさせない落ち着いた声色は、深く胸の中に切り込まれた。


「はい、実際に剣を交え確かめました。間違いなく、本人です。」


「…そうか。」


男は目を伏せ、動かなくなる。西から差し込む光の濃さに気付き 目をやると、美しい夕焼雲が空をゆっくりと流れていく。


じきに、夜が来る。


「A、お前には儂の所為で迷惑をかけてしまった。」


「……」


「この耄碌に出来る事はもう限られている。だからこの命(・・・)を持って償いたい。」


「ですがそれは…」


「良いんじゃ。どうせ先は長くなかった。


それにこの責任は誰かが取らなければならない。」


「……」


「お前に介錯をしてもらうつもりなのではない。…ただ、儂を見届けてくれぬか。」


茜色に染まる、覚悟を決めた男の顔。


その胸の中を占めているのは、寸分の揺るぎもない決意。私が彼を止める資格はない。


「……分かりました。」


「明日の早朝執り行おう。儂は準備をしてくる。今日は此処に泊まりなさい。」


「……はい。」


彼は部屋を出ていった。けれどもその場に縫い付けられたように動けない。


本当にこれで良いのか。ずっと頭の中でもう一人の自分が語りかけてくる。


…本当は止めたい。だが、今更彼が考えを改める事は決して有り得ないだろう。


それなら、と柄を強く握り締める。


彼に教えを乞いて手に入れた力を、彼の覚悟を決して無駄にはしない。それが私が出来る彼への唯一の恩返しだ。









清々しい、朝。


私は目を逸らす事なく その最期を見届けた。

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酸漿(プロフ) - きなこ餅さん» 有り難う御座います。これから続編を書いていくので、そちらの方も是非お楽しみください。 (2019年10月20日 21時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
きなこ餅 - たくさん伏線がはられていて、読む度にドキドキします! これからも更新頑張って下さい! (2019年10月19日 21時) (レス) id: 3d1d19266b (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 神桜佳音さん» 嬉しいコメントありがとうございます(^-^)励みになります。これからもどうか宜しくお願いします。 (2019年10月13日 19時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
神桜佳音(プロフ) - ようやく納得しました…!話が深い…。辛い。けど、すごい好きです!無理されないで更新されてください!続き待ってます! (2019年10月10日 19時) (レス) id: 78c574c661 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年9月21日 18時

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