陌貳拾陸 ページ33
本当に今日は最悪な日だ。
攻撃がかすり出来た傷から止めどなく血が流れ落ち、左目に入って視界が悪くなる。
「ほら、こんなに大事そうにつけて。大切なものなんだろう?」
刃の先には、むしり取られた勾玉を揺らしながらニタニタと気色悪い笑みを浮かべる鬼がいる。そしてその腕の中には、ガタガタと震え涙を浮かべる使用人の姿があった。
…途中までは確かに順調だったのだ。窓の外から様子を伺って、屋敷の主人に化けた鬼が独りになった瞬間窓を割って斬り付けた。
しかし運悪くこの部屋の近くに使用人がいたらしい。ソイツがいらぬ気を効かせて何事かと駆け付け、結果がこれだ。
人質を取られた以上迂闊に手は出せない。苛立ちが募り、ぎりぎりと歯噛みした。
「さぁ、お前の刃が俺に届くのが先か、俺か
コイツを潰すのが先か勝負するか?」
次の瞬間、鬼の頚が跳んだ。
目を見開く。鬼の背後に、いつの間にかあの女が立っていた。
「お怪我はありませんか?」
奴が使用人を抱え、笑みを浮かべてそう問いかけた次の瞬間、咄嗟に奴を突き飛ばした。
「チッ!」
鬼の爪が頬を掠める。
どういう訳か鬼は生きていた。鬼は舌打ちをして、そのまま硝子を割って逃走する。己を呼び止める声は無視して、その後を追った。
「この俺から逃げきれると思ったのか? 残念だったな。」
滝の畔まで追い詰め、ニヤリと口角を上げる。
「さて、俺の出世の為の踏み台となってもらおうか。」
突然鬼は笑い出した。
「ハハハッ、お前どうして俺が生きているのか分からないだろ。それはなぁ、」
次の瞬間、ドロリと鬼の体は溶けた。
「コウイウ事ダヨ、青二才ガ。」
血鬼術
その瞬間鬼の背後にある滝から濁流が一気に押し寄せてきた。
不味い、避けられ
全集中・暉の呼吸 天菩比ノ舞
夢を、見ているようだった。
空から、いや正確には滝から一人の女性が舞い下りて、濁流に向かって迷うことなく一閃する。
大きく飛び散る水飛沫に断末魔が加わって、己に殺到する直前に濁流は嘘のように消えた。
「ほら、これ大切なものでしょう?」
勾玉を差し出しながら、太陽のように笑う彼女が眩しすぎて、どういう訳か心臓が激しく鼓動し始める。
「……どーも。」
受け取って赤く染まった顔を隠そうとプイッとそっぽを向けば、彼女はやっとまともに話してくれたと破顔した。
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酸漿(プロフ) - きなこ餅さん» 有り難う御座います。これから続編を書いていくので、そちらの方も是非お楽しみください。 (2019年10月20日 21時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
きなこ餅 - たくさん伏線がはられていて、読む度にドキドキします! これからも更新頑張って下さい! (2019年10月19日 21時) (レス) id: 3d1d19266b (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 神桜佳音さん» 嬉しいコメントありがとうございます(^-^)励みになります。これからもどうか宜しくお願いします。 (2019年10月13日 19時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
神桜佳音(プロフ) - ようやく納得しました…!話が深い…。辛い。けど、すごい好きです!無理されないで更新されてください!続き待ってます! (2019年10月10日 19時) (レス) id: 78c574c661 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年9月21日 18時